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 「あぁ、もしかしたら自分の病状が重くなっているのかもしれない。明日病院へ行って確かめてもらおう。もしかするとまた入院するかもしれない。そうしたらお前も頑張ってな、俺も頑張るから」

 そう思いながら、ベッドの横にいるワンちゃんを撫でながら寝たそうです。

愛犬が自分の身代わりとなって、あの世へ先に逝ったのかもしれない

 ところが翌朝、男性が目覚めると、昨日まで元気だったワンちゃんが冷たくなっていたそうです。すぐに動物病院に診せましたが、時すでに遅く、ワンちゃんは亡くなっていました。原因を調べた結果、恐らく心筋梗塞だろうと診断をされたそうです。

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 「ワンちゃんは、自分の病気を知らせてくれて命を助けてくれたのに、可哀想なことをしたなぁ」

 男性は、次に自分の検査に向かうと病院の先生から、「ちょっと後でお話しできますか?」そう言われたそうです。

 「あぁ、とうとう自分の命が尽きる時がきたな。それでもあの愛犬と共にあの世で暮らせるなら良いなぁ」

 そう考えながら先生のところへ行くと、先生がこうおっしゃったそうです。

 「非常に珍しいんですけれども、これ今までも症例がなかったわけではないのですが、体の中にあった病気が全てなくなっているんです」

 男性は、「もしかすると、自分が飼っていたワンちゃんが自分の身代わりとなって、あの世へ先に逝ったのかもしれない」そう思って、私のお寺へこられました。

©文藝春秋/撮影・宮崎慎之輔

 「あの犬の命を私が奪ってしまったのであれば、これは申し訳ない。どうしたら良いでしょう」

 相談を受けた私は、男性にこんな話をしました。

 「先に亡くなられたご家族、ペットがもし、自分の代わりに亡くなったのであれば、なお一層日常生活でその命の分までしっかりと生きなくてはいけないのではないのでしょうか。ただ生きるのではなくて、“正しく生きる”ということを心掛けて、これから生活していかれてはどうでしょう」

 男性にそう声をかけると、ちょうど話をしていた本堂で、『ワン!』一度だけですが、犬が大きく鳴く声がしました。

 もしかすると、この男性を応援してくれているのではないかな、そんなふうに思います。

©文藝春秋/撮影・宮崎慎之輔

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