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通販でお菓子やワイン、そしてアダルトビデオも

 やがて父は、新聞広告やテレビの通販に電話をかけまくるようになった。実家へ行くと、必ず果物やお菓子の段ボール箱が台所に置かれていた。2ダースのワインを頼んでいたこともあった。ヘルパーさんにお願いして、荷物が届いたら伝票を写メしてもらい、購入先に電話をして返品できるものはし、今後は注文が来ても商品を送らないで欲しいとその都度頼んだ。

「食べるもの、たくさんあるのに」と言うと「ない」と言い張る。「ここにあるよ?」と目の前に差し出しても「ないんだよ。食べ物がないと困るんだよ!」と怒鳴る。よくない兆候だった。

 ほどなくして、電話の対象は通販から馴染みのパン屋さんやケアマネさんの事務所、つまり身近な知り合いに移った。遠慮がちにケアマネさんが教えてくれたところによると、数分おきに着信音が鳴る日もあったらしい。あちこちに菓子折りを持って謝りに行った。父のひとり暮らしはもう限界だった。

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 施設探しを始めた。持病で酸素導入をしているため、看護師さんが24時間常駐している施設を探さなければならなかった。酸素の管を装着するのは、とても簡単だが医療行為なので、介助者がやってはいけないことになっているのだ。11か所の特養に申込書を送ったが、要介護3では予想通りどこからも連絡はなかった。なんとかひとつ、受け入れてくれる老人ホームを見つけた。ひと月の年金をオーバーしてしまう額だったが、背に腹は代えられなかった。

写真はイメージです ©iStock.com

 お世話になっていたヘルパーさんに手伝ってもらい、空き家になった実家の整理を始めた。

 新聞の切り抜きや写真などの紙類、雑誌に混じって大量の封書が出てきた。アダルトビデオのカタログだった。宛名は母。消印は数年前。自分の名前で頼むのが嫌で、母の名前で申し込んだのだろう。そのカタログから注文したらしきDVDも、収納にたくさん詰め込まれていた。ため息が漏れた。