テレビではビートたけしをはじめタレントを抑える役回りが目立つ安住も、ラジオではかなり奔放にトークを繰り広げている。今年だけでも、自宅を整理しているときに見つけたという入社試験を受けた際の音声テープを流したり、放送の翌々日に社長から呼ばれて面談をする予定だと明かしたりと、自分やTBS社内のことを語った回が印象に残る。
安住によれば、《テレビは「映像の補足としての話」で見ている人が多いのに対して、ラジオは聴いている時間の質が高く、かなり難しい話をしても通じるのです》(※1)。それだけに、リスナーからのメールや手紙も、安住の話を100%理解した上で的確にアドバイスしてくれるものが少なくないという。リスナーの投稿は彼にとって大きな情報源にもなっているようだ。
《たとえばラジオで「東京ではハクモクレンという花が咲いてますね。私は北海道生まれだから見たことがなくて」なんて話をすると、「ハクモクレンはここでは多いよ」とか、「紫のはシモクレンというんです」という情報がグワーッと寄せられるんです。それを、翌年まるまるいただいて話したら、安住さんって物知りだね、なんて言われて(笑)》(※3)
ラジオは送り手と受け手の距離がきわめて近いメディアである。ときどき内輪ネタっぽい話をするのもラジオならではの気安さゆえだろうし、リスナーもそこから安住に親近感を抱くからこそ、さまざまな情報を寄せてくれるのではないか。
「話すチカラ」と「聞く力」がぶつかりあう
ちなみに上に引用したのは、前出の『週刊文春』の阿川佐和子との対談中の発言だが、この対談は、編集部がかれこれ20年近くにわたってオファーを続け、ようやく実現したものだという。そこでもラジオが大きな役割を担った。発端は『日曜天国』で安住が、著書の『話すチカラ』のタイトルは阿川のベストセラー『聞く力』(文春新書)から取ったと話したことである。この発言を知った編集部が改めてオファーしたところ、安住は直接返事するより先に、やはり『日曜天国』のなかで「『週刊文春』に出ます」と宣言したのだった。
この10月からは、阿川佐和子も東京のラジオ局・文化放送で新番組をスタートさせる(『阿川佐和子&ふかわりょう 日曜のほとり』)。それも日曜午前10時からと、奇しくも安住の『日曜天国』と時間帯が重なった。思いがけずラジオで「話すチカラ」と「聞く力」がぶつかることになり、ラジオ好きにはこちらの勝負も気になるところである。
※1 齋藤孝・安住紳一郎『話すチカラ』(ダイヤモンド社、2020年)
※2 安住紳一郎『局アナ 安住紳一郎』(小学館、2006年)
※3 『週刊文春』2020年4月23日号