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2021/08/06

「脳障害の一種ではないか」

 この取材を始めて10年になる。イップスは蜃気楼に似ていた。見えたと思い、近づくと消えてしまう。その繰り返しだった。ところが今回の取材で、ようやく腑に落ちる説に出くわした。

 大阪大学の脳神経内科医、望月秀樹はイップス症状に悩む選手の脳活動は職業性ジストニアを患っている人のそれと酷似していると指摘する。つまり、イップスも脳障害の一種ではないかと言うのだ。ただし、イップスを発症している人すべてが職業性ジストニアだというわけではない。

「イップスは脳機能障害からくるケースと、精神的ストレスからくるケースの両方があって、それぞれの要素がどれくらいずつあるかによって、症状が微妙に違うんだと思います」

 脳障害からくる極端な例が職業性ジストニアで、精神的ストレスからくる極端な例は「あがり症」だ。重度な脳疾患も、誰もが一度くらいは味わったことがあるだろう「あがった」経験も、広い意味においてはイップスであり、その二つは同一線上にあるというのだ。

 これまで私は、どこからどこまでがイップスなのか、線を引こうとばかりしていた。だが、違った。おそらく、誰も彼も、あれもこれも、すべてをひとまずイップスと考えていいのだ。イップスの症状が千差万別なのも当然のことだった。

 イップスを解明すれば、スポーツ界のノーベル賞をもらえる――。実際、そんな賞はないのだが、そう言われ続けてきた理由はうなずける。これまで、イップスについては、それくらい見当はずれなことばかり言われてきたし、わからないことばかりだった。

 今回、「文藝春秋」8月号及び「文藝春秋digital」に掲載した「イップスの正体~アスリートを襲う『奇病』」では、プロゴルファーの尾崎将司をはじめ、イップス症状にかかったアスリートや音楽家、研究者らに取材を重ね、その生の声を紹介した。

出典:「文藝春秋」2021年8月号

 イップスとは何か。まだまだ未解明な点は多い。だが、そのスケール感を想像できるところまではきた。

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