ただ、そんな島袋であっても、極端な不調に陥れば気弱になる。おそらく、そういう状態になってしまったタイミングで話を聞くものだから「イップスになる選手=メンタルが弱い」というイメージが定着してしまったのだろう。
症状も程度も千差万別
イップスという言葉は今、あらゆる競技に浸透しつつある。ボウリング、ダーツ、卓球、テニス等々。これまでイップスにかかる選手は道具を手で扱う競技のプレーヤーに限られると考えられていたが、長距離走やアイススケートにおいても、似たような症状が報告されている。
イップスにかかったと自覚している人たちは、発症の仕方も、症状も、程度も、千差万別だった。また、周りはイップスだと言っても、本人は、まったく自覚していないケースもあった。
イップスの様々な事例に耳を傾けていると、緊張して上手くしゃべれなくなったり足が震えてしまったりすることなど、じつに些細な経験もイップスの一種なのではないかと思えてくる。
いったいどこからどこまでがイップスなのか。あるいは、それらすべてをイップスと呼んでいいものなのか。
「職業性ジストニア」はイップスか?
また、もう一つ、イップスか否かわからない症状があった。「職業性ジストニア」と呼ばれる脳の病だ。
小説家や漫画家など、書く仕事をしている人や音楽家がよくかかる病気で、普段はなんともないのに、ペンや楽器を持った途端、手首などが変な方向に曲がるなどし、制御がきかなくなってしまうのだ。同じ動きを何千回、何万回と繰り返したことで起こる脳障害である。
熟練者であるにもかかわらずシンプルな動きができなくなってしまうところはイップスに似ていた。しかし、ほとんどの脳の専門家は「練習でできるのなら、それは職業性ジストニアではない」と断言した。
イップス傾向にある選手は「練習ではできるが、試合になるとできない」というケースが多かった。やはり職業性ジストニアと、イップスは別なのか。そう思わざるを得なかった。