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神輿の担ぎ手は企業に声を掛けて……

 そのビル街の隙間のような土地にひっそりとたたずむ日本橋日枝(ひえ)神社。赤坂にある日枝神社の摂社だ。

 日枝神社の山王祭は、江戸時代から神輿(みこし)が江戸城内に招き入れられてきた歴史がある。神田明神の神田祭と共に「天下祭」と呼ばれる。

 茅場町1丁目は山王祭の氏子域だ。

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 神輿は戦時中、澁澤倉庫に預けていたため戦火を逃れた。「作者は不明なのですが、重厚な造りで、担ぎ手には人気があります。ただし、重いので300~400人が交代で担がなければなりません」と今野さんは言う。わずかしか残っていない高齢の住民では担げない。だが、町会には約120の法人が会員として加わっている。そうした企業に声を掛けて回り、社員に担いでもらっているのが実情だ。「足袋(たび)で担ぐのに、中には革靴で来る人もいて、踏んづけられたら痛いどころか、危ない。でも、このまちはこうした企業の力で維持していくことになるんでしょうね」。今野さんは少し遠い目をした。

日本橋日枝神社。ここだけは緑があってホッとする ©葉上太郎

人口急増地区が抱える“難題”

 実は、もともとの住民が減っていく構図は、人口急増地区でも同じだ。

 同じ日本橋エリアでも、日本橋馬喰(ばくろ)町2丁目は、この10年強で228人が744人に増え、人口が3.3倍になった。

 同地区の町会長代行、須長寿海(すなが・かずみ)さん(52)は「今も中小マンションが4棟同時に建設されています。古くからいた人が商売をやめて出て行き、そこにマンションが建って新しい住民が増えるのです」と話す。地元で工事をしていた人に聞くと「さらに2棟建ちますよ」ということだった。

 新旧住民の意識差は大きい。

日本橋馬喰町2丁目 ©葉上太郎

「ワンルームや社宅としての借り上げも多いので、エレベータで知り合いになって、町会に誘おうかなと思った頃に移住してしまいます。若い夫婦が入居していても、赤ちゃんが生まれて大きくなったら出て行くのです。『町会に入って何のメリットがあるのか。必要ない』とおっしゃる人もいます。法人会員も古くからの企業は入ってくれますが、新しくビルに入居した企業にはなかなか理解してもらえません。それどころか、町会というと怪しい人間のように見られて」

 ところが、町会の役割はどんどん増えている。

 神田川が横を流れ、すぐ下流で隅田川に合流するような地区だ。地震なども含めた災害対応では、町会が中心にならざるを得ない。

 須長さんは、もし被災したら携帯電話の充電に困ると考え、町会独自で充電器や太陽光パネルなどをそろえた。公園の防災倉庫には、区役所から貸与された消防ポンプも入っているが、使い方が分からない。そこで、今春の定期点検時に業者に動かしてもらい、消火栓に接続するところからビデオに撮って町会役員で勉強した。

 それでも、実際に発災したら大混乱になるだろう。