「福島の桃を6個食べた。とてもデリシャスだった」
福島での試合後、米国ソフトボールチームのエリクソン監督がこんなコメントを残し、その言葉に多くの人が反応した。
「福島の桃は美味しいよね」
「食べてくれてありがとう」
「6個は食べ過ぎ。お腹壊さなかったかな」
そんなコメントを見て、私も思わずSNSで呟いてしまった。「福島の桃、食べてみたい」と。
その一言がきっかけで「福島の桃デリシャスプロジェクト(勝手に命名)」が走り出した。
「敵に塩」ならぬ「桃」
その呟きを見た福島の陸上関係者(Aさんとする)から「桃、送りますよ」と連絡をいただいた。「いえいえ、買います」「いえいえ、送ります」という日本的なやりとりを数回した後、「ではソフトボールの米国代表に送っていただくことは可能ですか」とお願いしたところ快諾いただいた。
ソフトボールの米国代表はすでに福島を離れ、ライバル日本との決戦の舞台、横浜に滞在中だった。旧知の米国チーム広報に「桃を送ってくださる方がいるのですがどうしましょう。監督に確認してもらえますか」と連絡すると、ほどなくして「うれしい! 食べたい!」と返信が。監督に確認したとは思えない返信の早さだったので、監督に確認したかは不明かつとても怪しいところだが、福島で食べた桃がそれだけ美味しかったということなのだろう。
というわけで、Aさんは福島から「敵に塩」ならぬ「桃」を送ることになった。
その夜の試合では日本がアメリカに勝ったので、エリクソン監督にとってはしょっぱい桃になってしまったかもしれない。でもAさんの気持ちは伝わっているだろう。
その後、Aさんから再び「海外からの記者の皆さんにも召し上がっていただきたいので、一箱送ります」と申し出をいただいた。「いえいえ、自分で購入します」「いえいえ」という再度のやりとりをした後、お言葉に甘えて送っていただいた。
翌日届いた桃の箱を開けると、ふんわりと桃の香りが部屋に広がった。1つ食べてみると、甘くてジューシーで、エリクソン監督が6個食べた理由が分かる。「海外の記者のみなさんに」と言われたのに1人で6個食べてしまおうか、という悪い自分が降りてきた。独り占めしてもばれないのでは、としばし自問自答した後、心を無にして袋に入れ、国立競技場のプレスルームに持っていった。