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「誰が、自分で自分のことを暴力団と言いますか。言うてるのは、警察ですよ」

 オジキたちは、一様に頷き、顔を見合わせて、ザワザワが始まった。

「じゃ、そういうことで。あとは……」

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 若頭に短く合図をして、会長は部屋を出た。少々困惑した様子だったが、若頭は一礼した。

 組事務所から出ると、車で堺市駅まで送ると一人の組員が申し出た。固辞したが、まあまあということになった。乗り込むと、タバコと芳香剤の入り交じった臭いで頭がクラクラする。誰かが窓を叩く。開けると、会長室で人権について熱く語り、退出を促された初老の組員だった。オジキは、車窓に顔を突っ込んで捲し立てた。

「なぁ。人権を守れっていうてんねん。そうやろ。おかしいやろ。ワシらに人権はないんか」

 人権、人権とヤクザに訴えられるという奇天烈さと強い日差しが照り込んで、私の頭はグラングランした。しかし、年長者であるオジキが話しているので、組員は車を出せない。しかし、もう車は駐車場から路上に出ている。警察が来たらどうするんだろうと思った瞬間、スッと車は通りへと滑り出した。若頭が目配せしたのだ。「おい、人権~」。人権オジキが、遠ざかっていく。道を曲がると、運転席の組員が言った。

「きょうは、会長の誕生会なんすよ」

 この時、事務所の上の階で祝い酒が振る舞われ、組員たちがみんな酔っ払っていたことを初めて知った。

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「ボクは発達障害なんです」

 秋が深まろうとしているのに、彼は待ち合わせの名古屋駅にワイシャツ一丁で現れた。

「上着は?」

「上着? 失くしました」

「え? で、スーツは?」

「大丈夫です。出てきますから」

 これから訪問する初対面の相手への礼儀で服装の話をしたのだが、彼は紛失しても必ず見つかるというハッピーストーリーで返してくる。プロデューサーとディレクターのコンビを組んで、これが二作目になるというのに、新幹線の中で会話をしていると、妙な話になった。

「ボクは発達障害なんです。診断されてます」

「ああ、そうなんだ……」

「阿武野さんも、そうだと思います!!」

「そうかもしれないけど、君と一緒にしてほしくないなぁ」

「絶対そうです」

 新幹線を降りてからも、斜め後ろからついてきて私に発達障害だと言い続ける男。とにかく声が大きくて、困ったものだ。東京駅丸の内口へといつにも増して早足で歩く。改札間際。私の切符が、ない……。ポケットをあっちこっち探す。が、ない。