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「おかしいやろ。ワシらに人権はないんか」ドキュメンタリー番組の撮影で直面した“ヤクザのリアル”

『さよならテレビ ドキュメンタリーを撮るということ』より #1

2021/08/21
note

「この番組は、東海テレビにしか作れません」

「ヤクザを取材したいんです」

 2014年の春、私のデスクにやってきて、圡方は大きな声で、「ヤクザ、ヤクザ」と連呼し、自分の気持ちを真っすぐに話した。『ホームレス理事長』が終わったあと、彼は、愛知県警察本部詰めの記者となった。いずれニュースデスクになるのだから、経験させておこうという報道部長の差配だった。

 警察での担当は、刑事部捜査二課と四課、つまり知能犯と暴力団だった。2年の警察担当のあと報道局の大部屋に戻ることになったが、新作のドキュメンタリーに取り組めるのなら暴力団を取材したいと答えた。

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 圡方の話をかいつまんで書くと、暴力団対策法・暴力団排除条例の施行以降、ヤクザを取り巻く状況は一変し、人権などという考え方は彼らには適用されなくなった。また、捜査する警察官も濃厚な交際を疑われるため、直接、ヤクザから情報を取りづらくなった。だから、彼らの実態を、若い刑事などはほとんど知らない。

 たとえば、指定暴力団の組員は銀行口座を作れない。幼稚園から子どもの入園を断られても暴力団員は何も言えない。自動車は売ってもらえないし、保険にも入れない。条例で、ヤクザへの利益供与が処罰の対象となったため、あらゆる市民が関係を持てなくなったのである。そんなことが起きている、絶滅寸前のヤクザを記録したいというのだ。そして、最後に、決めゼリフみたいに、このフレーズを幾度も繰り返した。

「この番組は、ボクたち東海テレビにしか作れません。絶対です」

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