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「変化を認めたくなかった……」

 野村さんは今、工場勤務を続けながら転職活動中だ。21年の年明け早々から転職エージェントに登録し、人事のプロフェッショナルとしての経験、スキルをアピールしているが、この数ヵ月、求人企業からのスカウトは皆無なうえ、応募して面接まで進めた企業は一社もない。アドバイザーによるキャリアカウンセリングを受けるなかで重要なことに気づいたと、21年春のインタビューで明かしてくれた。

「確かに人事ひと筋での経験はこの50代前半という年齢のハンディを多少はカバーできるかもしれませんが……管理職としての能力、特に部下を育成し、適正に評価していくという面では不十分だったと痛感しているんです。あの問題の部下とも、とことん向き合うべきだった。実は……部長ともあろう人間が20代半ばの新米社員からの嫌がらせ、いじめに遭っていることを恥じて、その事実を認めたくなくて、上司に報告できずにいた。野放しにしたことで、ツイッターでの誹謗中傷にまで発展したようにも思うんです」

©️iStock.com

 なぜ、“逆パワハラ”の事実を受け入れるまでに時間がかかってしまったのか。

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「変化を認めたくなかったのだと思います。部下は上司に否応なく従う、という考えで同期の多いバブル世代の中で管理職まで勝ち抜いてきましたから……。でも今の若手社員は仕事よりもプライベートを重視するし、打たれ弱く、きつく指導されるなど嫌なことがあるとすぐ逃げ出そうとする。そんな部下を相手にしたら、過去の上司・部下関係の価値観は全く通用しませんよね。まず部下の変化を受け入れたうえで、それに見合った向き合い方が必要だったのではないかと……。では、具体的にどうすれば良いのかとなると、いまだに答えは見つかっていないんですけれど……」

 工場事務部への異動を契機に単身赴任中で、離れて暮らす妻は定年まで今の会社に勤めることを強く求めているという。

「固定観念に囚われない、若手社員との新たな関係をキャリア人生の最後に経験してみたいんです」

 妻の反対を押し切ってまで転職を希望する理由を尋ねると、メガネの真ん中を右手中指で上げながら、間髪を容れずにそう答えた。

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