「失敗の責任をすべて押しつけられた」「とうてい達成不可能な、とんでもない目標を課された」「不祥事を隠蔽するよう迫られた」。
仕事をしていると誰もが「本当にヤバい場面」に直面することがあるかもしれません。そんな危機に、どう対処すればいいのか。経営共創基盤(IGPI)共同経営者 マネージングディレクター・木村尚敬氏による『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のため30問』(PHP研究所)より一部抜粋して危機を乗り越えていくためのリアルな方策を紹介します。(全2回の2回目/前編を読む)
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CASE3
「打たれ弱い若者」 をどう指導するか?
「能力」 と 「プライド」 のギャップが若手を苦しめる
「最近の若手は打たれ弱い」
「ダメ出しや批判を怖がる」
そんな声をよく聞きます。
もし若い世代にそうした傾向があるとしたら、それは失敗を経験する機会が減っていることが原因の1つと考えられます。特に学歴が高い人ほど、社会に出るまで挫折を味わったことがないため、少しの失敗で心が折れやすくなります。
産業医の大室正志氏によれば、人間のメンタルを支えるのは「能力」と「プライド」のバランスだそうです。
受験戦争を勝ち抜いてきた優等生は、入試に合格したり、テストで良い点を取るたびに、能力が上がっていきます。それに伴って、プライドもどんどん高くなる。この段階では、能力もプライドも上昇を続けるので、2つのバランスは保たれます。
ところが社会人になった瞬間、「能力」はゼロになります。ジョブ型雇用を前提とした専門教育を受ける欧米の学生たちとは異なり、日本の会社はまだまだメンバーシップ型雇用が中心なので、大学まで学んできたことは仕事で通用しない場合がほとんどだからです。その一方、「プライド」は高いままなので、2つの均衡は一気に崩れます。
プライドは高いのに、仕事では能力を発揮できない。このギャップが若手社員を苦しめるわけです。
丁寧なコミュニケーションでプライドを取り除く
この問題はずっと以前から存在していました。しかし、かつては相手のプライドなど気にせず、厳しく指導する体育会系の会社がほとんどでした。結果的にプライドが打ち砕かれ、能力とのバランスが取れることになったわけです。
しかし、これは若手がいくらでも補充できた時代だから通用した話です。今はこの方法は「パワハラ」とされてしまいますし、そもそもそんなことをする会社には、誰も人が入ってこなくなります。
では、どうすればいいのか。やはりポイントは「能力」と「プライド」のバランスを取ることです。しかし、高圧的にプライドを叩き潰すのではなく、あくまで婉曲に。
例えば、ミスをした若手に対して、「経験が浅いうちは誰もが通る道だ」「失敗から何を学ぶかが重要だ」といった声がけをすることで、自分がまだまだ未熟であることをあくまで婉曲に悟らせるわけです。こうしたことの積み重ねで、徐々にプライドをリセットしていく必要があるでしょう。