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「これで死ぬ理由ができた…」コロナ禍で職を失った20代女性のSOSは役所で門前払いに

DaiGoに伝えたいコロナ禍の貧困現場 #2

2021/08/19
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「これで死ぬ理由ができた」

「これで死ねると思ったのに……。ほんとに来ちゃったんだ」

 駆け付け支援で現れた瀬戸さんを初めて見たとき、井上未可子さん(仮名・20代)は、そう思ったという。

 2020年の11月中旬。

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 飲まず食わずの路上生活が3日続いていた。今晩はこの冬一番の冷え込みになると、街角の大型ビジョンのニュースが報じていた。でも、「全財産」が入っているキャリーケースの中にあるのは夏服だけ。寒さがこたえる。

 この日、料金未払いで携帯の通話機能が止まった。所持金は現金1円とPayPay505円だけ。夕方、東京都の相談窓口「TOKYOチャレンジネット」にフリーWi-Fiを使ってメールで相談した。結果は「電話で連絡をいただけない方はお受けできません」という門前払いだった。

 八方ふさがりの状況で井上さんはこう思ったという。

「これで死ぬ理由ができた」

©iStock.com

 妙にすっきりした気持ちになりながらも、最後の最後、ダメ元だと思ってネットで偶然見つけた新型コロナ災害緊急アクションの相談フォームにSOSのメールを送った。すると、井上さんの予想を裏切り、ほどなくして返信があった。返信には待ち合わせの時間と場所などとともに「反貧困ネットワークの瀬戸大作事務局長が車でうかがいます」と書かれている。そして1時間後。約束した東京駅近くの八重洲ブックセンターの前に、ハザードランプを付けた車が止まっているのを見つけた。

 しかし、心身ともに限界だった井上さんの緊張は簡単には緩まなかった。

「車に乗っていいのかな……。運転席の男の人が瀬戸さんっていう人? 大柄で怖そう……。私、終わったな……。きっとこれから、どこか知らないところに連れていかれるんだ。でも、それならそれでいいや。もうどうでもいい……」

 井上さんに心の中で「怖そうな男の人」と思われていたことなど知るよしもない瀬戸さんはこの夜、駆け付け支援の予定が立て続けに入っていた。井上さんに後部座席に乗るように言い、簡単な自己紹介をすると、新たなSOS発信者たちのもとに向かって慌ただしく車を発進させた。その後の相談者は全員男性。瀬戸さんは彼らを1人ずつ助手席に招き入れると、ペンとノートを手に、訴えに耳を傾けていく。必要に応じて食費などを手渡し、「ちゃんと食べてくださいよ」「これからつながっていこう!」などと声をかけては送り出していった。

 瀬戸さんは普段、複数の相談者を同時に車に乗せることはしない。車内で交わされる会話は、極めてプライベートな内容だからだ。このとき井上さんを車に乗せたままにしたのは、薄着の彼女を冷え込みが厳しい屋外で待たせることを躊躇したのだろう。

 ただ、瀬戸さんが真剣に聞き取りにあたる様子を後部座席から見ることで、井上さんはようやく新型コロナ災害緊急アクションが「怪しい団体ではないらしい」と思えたという。気がつくと、井上さんの両目から涙が溢れていた。