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「謎の旨味成分で善人より悪いやつの方がうまい」人気エッセイマンガ家はなぜ人肉食マンガを描き始めたのか

福満しげゆきさんインタビュー #1

note

「我が家だけの独自ルール」を極端にしたバージョン

――タイトルはどこから着想しましたか?

福満 それは、あのぅ、『万引き家族』という映画があったじゃないですか。

――是枝裕和監督の?

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福満 そうです、そうです。まだ観ていないんですけど、万引きをせざるを得ないような社会的状況に置かれた家族がいて、それでも温かいシーンがある映画なのかな、と想像したんですよ。樹木希林とかも出てるし。でもこれが「万引き」じゃなかったらどうなんだろうな、と思ったんです。

――と言いますと?

福満 「押し込み強盗殺人家族」だったら成立しなかったと思うんですよね。

――それは、そうかもしれませんね……。

福満 あ、あと伊集院光さんのラジオ(TBSラジオ系列『伊集院光 深夜の馬鹿力』)で、「我が家だけの独自ルール」を募集するコーナーがあったんです。社会に出たときにはじめて「これやっているの、ウチだけなの?」って気づくような独自ルールって、ありますよね。

――子供の頃に母親がパンの耳を揚げてシナモンをかけたものを作ってくれて、伊集院さん本人はうまいと思って食べていたけど、友達が遊びに来たときにおやつとして出されるとキツい、みたいな話がありましたね。

福満 それを極端にしたバージョンですね。「え、人肉を食べているのはウチだけなの?」と。ですから、はじめに『ひとくい家族』というタイトルが決まり、そこからストーリーを着想していったところはあります。

――……割とパロディとかブラックユーモア的な発想の仕方ですね。

福満 人肉は食べますけど、キモいホラーではなくて、これギャグマンガですから。

――『娘味』では加工された食品でしたが、今作では手の形をした唐揚げなんかが出てきます。あそこは「笑うところ」という認識で大丈夫でしょうか?

©福満しげゆき/双葉社

福満 もちろん、そうですよ(笑)。でも、「笑っちゃダメなんじゃないか」と思う読者もいたようですね。やっぱり読んでいる方はそこに至るまでのことを考えますから。こちらが何の意図も込めずに描いたとしても、読者は「人が人を食べている」ことに対して、何も考えないわけにはいかないですからねえ。