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《16歳で母親を殺害》「金属バットで頭ではなく、より苦しむ躰を殴った…」元死刑囚・山地悠紀夫が語った母親を殺害した3つの理由

『連続殺人犯』より#7

2021/08/30

source : 文春文庫

genre : ライフ, 読書, 社会

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7歳年上の女性への憧れ

 2000年4月、その店で新たに女性店員が働くようになる。髪をブリーチした小柄でかわいらしい顔をした彼女・遠山久美さん(仮名)に、山地は密かに憧れを抱くようになっていた。彼女は16歳の山地よりも7歳年上の23歳だった。

 仕事は充実し、仕事のあとの楽しみもできた。だが、母と暮らす自宅は、いよいよ末期的な借金地獄の様相を呈した。母が組んだ無謀なローンによって、借金取りが次から次へと押し寄せ、電話や電気が止められたのだ。ある日、山地は母に借金の額を問い詰めたことがある。最初はとぼけようとした母だが、根負けして全部で200万円くらいあると明かした。月に4、5万円の返済と聞いて山地は引き下がったが、実際の借金額は500万円ほどに膨らんでいた。

 一方、山地が憧れる久美さんには、付き合って5年になる彼氏がいた。山地もそのことは聞いていた。だが、彼女は彼氏との付き合いに迷いがあるような口ぶりで、年下の山地に期待を抱かせた。そして7月27日、久美さんは前夜に愛を告白した山地を一人暮らしの部屋に招き入れ、肉体関係に発展したのである。

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恋路までも邪魔しようとする母

 翌日、珍しく新聞配達の仕事を無断で休んだことを心配した、販売店の関係者が山地家を訪ねた。敏江さんも山地が昨夜帰って来なかったことを心配していて、心当たりはないかと尋ねてきたため、その関係者は山地が最近よく口にしている久美さんのことを洩らしてしまった。息子の財布から時折カネを抜き取っていた敏江さんは、財布のなかにあった名刺でその名前に心当たりがあった。

 かたや山地の心は不安で揺れていた。というのも、関係を持った後も久美さんが彼氏と自分を天秤にかけていたからだ。そしてその天秤は、彼氏のほうにやや傾いている。

 そんなとき、久美さんから彼女の携帯電話に何度か無言電話がかかってくることを聞かされた。敏江さんは携帯電話に、かけた側の電話番号が表示されることを知らなかったようだ。山地は母が借金で自分を苦しめるだけでなく、恋路までも邪魔しようとしていると確信した。

 7月29日、山地は自宅で敏江さんが帰宅するのを待った。

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