「ガソリンなんて使ってないよ!」と大笑い
炎天下にさらされながら加工場へ到着したアサリは、写真の選別機で商品に適したものと廃棄するものに分けられる。中央の投入口にアサリを流し入れると、モーター音が鳴り響き、選別機の両脇から粒が小さかったり、割れてしまったアサリが落ちてくる。
近くで見てみようと、中をのぞきこんだ。すると、強烈な腐臭が鼻を突き、思わずのけぞった。ガソリンのような臭いもしたので、通訳の日本人ジャーナリスト・林真宣氏に訊いてもらったところ、
「ガソリンなんて使ってないよ!」と大笑いされた。しかし、工業用の油というよりヘドロのような臭いにどうしても耐えられず、屋内へ逃げ込んだ。
室内の中央に大きな釜が置いてあった。中には黒くて生臭い水が入っている。「ヘドロアサリ」を入れているからどす黒くなったのか、単に不衛生だからなのか判然としなかった。釜の中もサビだらけで、ずいぶん古いもののようだ。
「これはアサリを茹でる釜だよ。火を通さないと悪くなるから。その釜で茹でた後、またトラックで港まで運ぶんだ。このアサリはたまに日本へも輸出している。いつも日本と取引があるわけじゃないけど、よく知らないバイヤーがやってきて『日本へ送る分が足りないから分けてくれ』って注文しにくるのさ」
社長に聞いても、日本のどんな企業と取引しているか把握していなかった。全て中国人のバイヤー任せだ。なぜか、バイヤーの素性については頑なに教えてくれなかった。
帰り際、社長は親類の運転手に「お土産だよ」と言って、小さな網に入った加工前のアサリを渡した。
笑顔で手を振る社長に別れを告げ、ヘドロのような臭いが充満したアサリ加工場を後にした。昼食を取ることになり、我々は青島の中心街にある飲食店へ入った。我々へのお礼のつもりだったのだろう、運転手は店員に加工場でもらった「ヘドロアサリ」を渡し、何やら指示を出した。数分後、もう見たくないと思っていたアサリが「酒蒸し」となって我々の前に出てきたのである。