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「感染した男性も家族がいたら証言できない」 あのススキノ“おっぱいクラスター”はなぜ起こったのか?《コロナ禍のススキノはいま》

日本色街彷徨 札幌・ススキノ#1

2021/09/04
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「こんな状況は初めてです。まさに前代未聞ですよ」

 花屋を訪ねたあと、私は30年近い付き合いになる、國政さんという北海道新聞のカメラマンに会った。北海道の取材では常にお世話になっている。彼との出会いは、この仕事をする前に受講していた、ノンフィクションライターの鎌田慧さんが講師をしていた文章教室でだった。

 國政さんは、アロハシャツにポマードべったりのとんがり頭で教室に現れ、にわかに信じ難かったが、「新聞社のカメラマンになりたいんじゃ」と広言していた。そして見事、翌年新聞社に紛れ込んだ。今も変わりなくアロハシャツにとんがり頭で現場を走り続けている。

 私たちは國政さんの知り合いが経営しているきしめん屋に向かった。札幌といえば、味噌ラーメンと余所者の私は思ってしまうが、札幌で國政さんと会うたびに、その店に行くので、一度は食べないと札幌に来た気がしないほど虜になってしまった。

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 それにしても、ススキノできしめんとは珍しいが、広島出身の店主は、あごだしを使って、ダシの風味が濃厚なきしめんを出してくれるのだった。國政さんは、岡山の出身なので、西国出身者同士、遠く離れた北海道で心置きなくつきあえるのかもしれない。

コロナ後のススキノは人通りもまばら ©八木澤高明

 きしめんを平らげたあと、店主の男性に昨今の様子を聞いてみた。

「7年前からこの場所で店を経営していますけど、こんな状況は初めてですよね。まさに前代未聞ですよ。どんどん閉めている飲食店も増えています」

「いちいちおっぱいを消毒するのが面倒くさくて、そのまま接客」

――風俗店の情報は入ってきますか?

「実際に店には行ってないですけど、うちの前の通りは、デリヘルの送迎の車がコロナ前にはびっしり止まっていたんです。それが今では、1台か2台止まっているだけで、景気が悪いんだなっていうことを実感できますよね。それと、ススキノでのクラスターは、とあるライブハウスが第1号なんですけど、ちょうどその時期におっぱいパブでもクラスターが発生したんです。働いている女性が、いちいちおっぱいを消毒するのが面倒くさいから、そのまま接客して、一気に広まっちゃったみたいです。でも、感染した男性も家族がいたりしたらどこで濃厚接触したか証言できないですよね。感染経路不明というのは、風俗が多いんじゃないですか」

 幸いにも店主は、コロナに感染せずにすんでいるが、小料理屋をやっている親戚が昨年コロナに感染したという。

「昨年の3月ですね。ライブハウスでクラスターが出た時に、そのライブハウスと同じビルで親戚は小料理屋をやっていたんです。これもはっきりとはわからないですけど、お客さんの行き来があったんじゃないでしょうかね。感染したのは私の叔父で、年齢は70代だったんですけど、入院はしましたが、重症化はしませんでした。年齢も年齢なんでね、結局店を閉めてしまったんです」

 ススキノで商売をしているからこそ、入ってくる情報だった。話を聞いていると、実際に発表された人数以上の感染者がいることは間違いないだろう。

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