昨年7月、新型コロナウイルスの猛威が日本中に知れ渡った頃のこと。日本の繁華街の中でも早々にクラスターが発生したのが、札幌・ススキノだった。現地では「キャバクラ」と呼称されるセクシーパブでの出来事だった。客ひとりを含む12人が感染し、そのほか多数の濃厚接触者にも感染の疑いがもたれるなど、大きな話題となった。

 先日閉幕した東京五輪では、マラソン競技も行われた札幌。その夜の街では、コロナ禍の1年間で何が起きていたのか。『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)の著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が現地を歩いた。(全3回の3回目/#1#2を読む)

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抗体検査はしているが、それ以外のコロナ対策はナシ

 いま、ススキノで働く風俗嬢たちは、どのような状況にあるのだろうか。

 話を聞きたいと思い、風俗店の従業員・吉沢さんに相談すると、ススキノのソープランドで働くめぐみ(30歳)さんを紹介してくれた。

 私たちは彼女の出勤前の午前9時に地下鉄すすきの駅の改札を出たところで待ち合わせをした。スーツ姿の会社員が急ぎ足で歩いていく中、オフィスというよりは、夜のネオンが似合う黒いロングコートを着た背の高い女性が現れた。

 彼女がめぐみさんだろうと思ったが、念のため吉沢さんから聞いていた携帯電話を鳴らしてみた。

 すぐに、その黒いロングコートの女性が電話を取った。その女性に近づくと、彼女も私のことに気がついた。

ススキノのソープで働く30歳のめぐみさん ©八木澤高明

「はじめまして、よろしくお願いいたします」

 挨拶をすると、改札口から歩いて数分の場所にある喫茶店に向かった。コロナの影響があるのだろう、店内には私たちの姿しかなかった。誰もいないほうが、取材の内容から好都合ではあったが、何となく寂しい気になるのだった。

――昨年からコロナで大変ですよね?

「去年は1月(の売り上げ)がすごく良かったんですよ。ところがコロナが流行りだしてから、一気に落ち込んで、5月が最悪でしたね。コロナ前は平均して月に150万ぐらいは、稼いでいたんですけど、半分ぐらいになりました」

コロナ後の狸小路は閑散としていた ©八木澤高明

 売り上げが半分に落ち込むことはこれまでなかったという。

 彼女の常日頃の努力もあるのだろうが、むしろこのコロナ禍でもお客さんがゼロになることはなく、半分程度の落ち込みで済んでいることの方が驚きだった。

――コロナでもお客さんは来るんですね?

「そうですね。関係ない人には関係ないんですよ。風邪ぐらいにしか思っていないんじゃないですかね。お店の女の子は毎月抗体検査をしています。それ以外には特にコロナ対策をしていないですね」