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 何時間寝ただろう。お母さんが部屋に入ってきた音で目を覚ました僕は、うまく目が開かないことから、顔が腫れてしまっているのだと察しがついたが、母も同じように泣き腫らした顔をしていた。父と妹はどこかに出かけたようだ。

「あんたが……良輔が、辛かったね」

 母の腫れた目からまた涙が溢れた。どうやら僕の涙も枯れてはいないようだ。

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「辛かったよ。でも、僕はもう大丈夫だから。お母さんにまで辛い思いをさせて、ごめんね」

「私よりもあんたが……良輔が辛かっただろうなって、思ってさ」

「僕は今、幸せだよ。だけど、こんな風に、自分を認められるようになるまで20年かかったんだ。だからお母さんもきっと、僕がゲイだということを認めるのには、時間がかかるよね」

「そうだね、わかってやりたいけど、難しいわ。何年もかかるかもしれないし、一生わかってやれないかもしれない。だけど、あんたに対する想いは変わらないから」

「ありがとう。安心した。巻き込んでごめんね。でもあまり悩まないでね。悩まれると僕も辛いから」

「悩むさそりゃ。でも北海道と東京で、離れて住んでるんだから、あんたは自由にやりなさい。でも、申し訳ないけど、あんたの、そのことに関しては、もう言ってこないで。あんたが、どんな人と付き合おうと、なにがあろうと、私には言わないで。私とあんたは、母と息子、それだけ。それ以外のことは知りたくないから」

「わかった」

「でも、いつでも応援してるからね」

母との間に空いた“穴”は、7年間埋まらなかった

 母はこう言ってくれたのだけど、母へのカミングアウトは、失敗だったように思えてならなかった。言えばスッキリするものだと思っていたが、そうはならないどころか、カミングアウトしたことを後悔すらした。

 

 なんだか気まずい距離ができたように感じたし、母に説得され、父へのカミングアウトは断念せざるを得なかった。

 母曰く、父は絶対、縁を切ると言い出すと言うのだ。僕自身は縁を切られるのも覚悟の上で父に話したかったが、それでは間に立たされる母がまた辛い想いをする羽目になる。それならばと、僕は父へのカミングアウトを断念したのだ。

 母と僕の間に、なんとなく空いてしまった穴は、この後7年もの間、埋まる事はなかった。

写真=平松市聖/文藝春秋
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