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大歓声が今も耳に残っている…“大井の帝王”的場文男騎手(64)が語る“騎手人生で一番印象深いレース”とは

『競馬伝説の名勝負』より #1

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1日で15頭以上を調教

 騎手を目指すきっかけとなったひとつは、中学生の頃に見たダービー。皐月賞馬ヒカルイマイの衝撃の末脚を見て、騎手という職業に憧れたのだという。

「僕らが騎手になった時代は忙しい時代でね…今と違って人手が足りていなかった。調教は騎手がやらなくてはならず、1日で15頭以上を調教していたね。朝の3時~8時くらいまで、ずっと乗りっぱなし。騎手が乗らないと厩務員さんのお仕事も終わらないわけで、厩務員さん同士の喧嘩もあるくらい混み合っていたから…。今はちゃんと決められたスケジュールに従って、5頭くらい乗れば終わりだから、随分と楽になったよ」

 的場騎手は大井の帝王という愛称に違わず、大井競馬リーディングをこれまでに21回(83年、85年~2004年)獲得している名手。しかし地方競馬全国リーディングを初めて獲得したのは、02年のこと。これにも、地方競馬界の変革が影響を及ぼしている。

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©iStock.com

一番印象に残っているレースは、97年の帝王賞

「調教があまりにも大変なのもあって、疲れてしまってね…。調教が終わる頃には『もうレースはいいや…』ってなってしまう。だから、大井以外までわざわざ乗りに行けなかったんだよね。徐々に調教を担当する人が増えて、他場でも乗る余裕ができて、ようやく全国でリーディングがとれるようになった。それまでずっとリーディングは2位だったからね。特に、最初にとった年は印象的だったな。6月まで大幅なリードをとっていたのに、途中で怪我しちゃって。結局は最終日までもつれ込んでしまってね…それでも獲得できた時は嬉しかったなぁ」

 的場騎手が一番印象に残っているレースは、97年の帝王賞。コンサートボーイとのコンビで、アブクマポーロ・石崎隆之騎手、バトルライン・武豊騎手との叩き合いを制した。その時の大歓声が、今も耳に残っている。

「すごい声援でね。あの当時は新聞を投げる人とかも普通にいたからね…。でも、コロナ禍の無観客競馬でわかったけど、やはり観客の皆さまがいないと寂しい。改めてファンの力を痛感したよ。これからも気持ちを新たに、競馬や日本を盛り上げていきたいね!」

 そう語る名手の眼差しは、未来を見据えて輝いていた。

(聞き手・緒方きしん)

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