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「距離ロスをしても勝てる自信があった」“シャドーロールの怪物”ナリタブライアンに南井騎手が抱いた“生々しい感覚”

『競馬伝説の名勝負』より #2

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3歳馬ナリタブライアンがGⅠ5勝目をマーク

 この2戦の結果から三冠がかかったナリタブライアンの菊花賞を「危ない」とみるムキもあった。逃げたスティールキャストが向正面でピッチを上げながら大逃げを打つと場内からどよめきが起きた。が、道中7番手を進んだナリタブライアンは慌てることなく3コーナーを下ってから仕掛けると、大外を回って前を捉え、2着ヤシマソブリンに7馬身差で三冠を達成。杉本清アナの「弟は大丈夫だ」は名実況として刻まれた。

 そして迎えた有馬記念。ビワハヤヒデとの兄弟対決こそ幻となったが、GⅠ2勝のライスシャワー、オークス馬チョウカイキャロル、兄を破った天皇賞馬ネーハイシーザーら豪華メンバーが揃った一戦は、大逃げを打ったツインターボを4コーナーでナリタブライアンが捕まえにかかる。外から重賞6連勝中のヒシアマゾンが必死に追いすがるも怪物の脚色は衰えない。終わってみれば3馬身差の圧勝で、3歳馬ナリタブライアンがGⅠ5勝目をマークした。

第39回有馬記念を制したナリタブライアン ©文藝春秋

日本プロスポーツ大賞の殊勲賞を受賞

 鞍上の南井はこの年、ジャパンCをマーベラスクラウンで制し、年間GⅠ5勝の新記録(当時)を樹立。人馬ともに人生最高の1年となった。加えてプロ野球選手や大相撲、プロゴルファーやプロボクサーの受賞者が多い日本プロスポーツ大賞の殊勲賞にも選出され、JRA関係者では89年の武豊に次いで2人目の受賞者となった。

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 この有馬記念から11年後、ディープインパクトで無敗三冠を達成した武豊だが、有馬記念を2着に敗れたためか、紅白の審査員席にその姿はなかった。「勝っていれば呼ばれたのでは?」と思わずにはいられなかった。

【前編を読む】大歓声が今も耳に残っている…“大井の帝王”的場文男騎手(64)が語る騎手人生で“一番印象深いレース”とは

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2021年8月27日 発売

「距離ロスをしても勝てる自信があった」“シャドーロールの怪物”ナリタブライアンに南井騎手が抱いた“生々しい感覚”

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