文春オンラインでは、「あなたが書きたい『平成の名言』と『平成の事件』は?」と題して、広く原稿を募集しました。今回は、その中から最優秀賞に入選した作品を掲載します。
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競馬場に行っては食事もレースもそこそこに
競馬場にはいつも老若男女が行き交い、ある人は騎手と馬が一体となって駆け抜ける競技性にうっとりし、ある人は汗水流して手にしたお金を馬券に変えて血走った目でレースを眺め、ある人は競馬場グルメに舌鼓を打ち、またある人は……。各々がそれぞれの角度から競馬という娯楽を楽しんでいる。
競馬に魅せられて10年余りとなる私はといえば、競馬場に行っては食事もレースもそこそこに、“ハズレ馬券の観察”に躍起となる。
平成9年に発行された『あやしい馬券心理ファイル』(著:谷川弘虫 / 発行:情報センター出版局)がきっかけだ。ハズレ馬券を逆にたどれば、その人の人生が浮かび上がってくるのではないかと仮定して推察を重ねる内容の本書に感化されて以来、毎週末のように競馬場に足を運び、捨てられた馬券の観察を行っては、どういう人物がその馬券を捨てたのかを推理する。
どんな馬券にもその人なりの理由がある
馬券を買うということは、自分のお金を賭ける行為であるので、どんなに馬鹿馬鹿しい馬券であっても、なぜその馬券を買ったのか、その人なりの理由があり、それを探る行程に独特のおかしみがあるのだ。馬券を拾うという行為に当初は羞恥心を抱いていたが、今となってはなんの気なしに必要最低限の体の動きで腰を屈めてスムースにそれを拾い、ゴミ箱の中に捨てられた馬券があることを目視すれば、何も考えず一直線に手を突っ込む! 競馬場でそんな奇特な楽しみを続ける私が観察した馬券をまずは紹介したい。
作品名をつけるなら『絶対に負けられない勝負がここにある』といったところか。
朝から1レースも欠かすことなく馬券を買い続けるも、予想はてんで的外れなものばかりで、財布の中身も減ってきた。まずはなんでもいいから当てることが大事だ。そこからツキを呼び寄せてなんとか挽回していこう。そうだ、次のレースは絶対に当てなければいけない勝負だ。