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「良い馬ですよ。他の馬より脚が遅いだけ」
なお、レースの結果は11頭立ての10着。幸か不幸か連敗が続くこととなり、その様子がさまざまなメディアで報道されることになる。
騎乗した武豊はストイックに勝利を突き詰める男であり、強い馬が強い勝ち方をすることに競馬の真の面白さがあると語り、ハルウララの異様な騒がれ方には辟易していたと伝えられるが、レース後のインタビューでは「良い馬ですよ。他の馬より脚が遅いだけ」とハルウララのことを評した。ウイットに富んだその一言を平成の名言として挙げたい。
勝ちを切望する負けは負けではない
スポーツという面でもギャンブルという面でも、脚光を浴び、競馬の歴史を紡ぐのは、いつだって勝者ばかりであった。それは競馬以外の分野でも同じだったろう。しかし、ハルウララはまぎれもない敗者だ。そして、そのハルウララが高知競馬場に多大な売り上げをもたらし、競馬場廃止の危機から脱するきっかけをつくり、歴史に名を残した。勝ち負けと良し悪しが一致するというわけでないことをハルウララは証明した。歴史は勝者がつくるとされるが、そればかりではないのだ。
先に紹介した馬券も、ハルウララの馬生も、最初から負けようとしていないからこそ心を打つ。勝とうともがく姿があるからこそ、負ける姿に引力が生じ、人々が魅せられる。勝ちを切望する負けは負けではない。悪くないのだ。国際的な競争力が沈下し、自虐史観が漂う日本の平成の終わり、そんなことを考えた。
余談だが、ハルウララに武豊が騎乗したその日、果たして競馬場にハルウララの単勝馬券は捨てられていたのだろうか。1枚も落ちていなかったのではないかと思う。