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「起きてから慌てるんじゃ遅いんよ」“スーパーボランティア”尾畠さんが語る自然災害で生死を分ける“心構え”

『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』より #1

白石 あづさ 2021/09/03

 想像を絶する人生の「まさか」って誰にでも起こりうる。いいことで使うなら幸せだけど、「“まさか”大地震が起こるとは」「“まさか”車が急発進するとは」「“まさか”あの人に騙されるとは」って悪いことも起こるんよ。

「災害は忘れた頃にやって来る」とも言うよね。普段から気を抜かず、「まさか」を考える癖は大事なんよ。

「だと思う」と「想定外」は逃げ言葉

 言葉ちゅうのは人柄がでるのよ。よく「だと思う」が口癖になっている人いるでしょ?「大丈夫だ」って言い切るんじゃなくて、「大丈夫だと思う」って。それね、「たぶん」っていうクエスチョンなんですよ。「田」の下に「心」って書く「思う」ちゅう言葉を語尾に入れるんです。つまり、心の中で考えるのが「思う」。

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 これ、後で何か突っ込まれても、「あれは自分の心の中で思っただけ」ちゅう逃げ言葉なんよ。今、政治家の人でも、会社の社長や大学の学長でもね、「だ」って言い切る人は、ほとんどいません。

 でもな、実は「思う」以上の逃げ言葉があるの。何やと思う? 金バッチ付けとる議員さんが、よう使う。答えは「想定外」ちゅう言葉よ。「やるだけやったんだけど、これは想定外でした」って。

(中略)

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災害が起きてから慌てるんじゃ遅いんよ

 人間、いざとなればブルーシートで屋根と壁を作れば眠れるし、食べ物がなければカタツムリだってトカゲだってタニシだって採って食えばいい。エスカルゴならいいけど、日本のカタツムリはちょっと無理だって? ははは、姉さん、もしもな、本当にお腹がすいたらカタツムリだっておいしく見えてくるよ。それに一度、食べておけば、「いざとなったら、これは食糧なんだ」と覚悟ができるっちゃ。

 今の日本人は贅沢に慣れてしまって、ない袖を振りすぎる。そう思わん? それで何でも「お金、お金」と口にするんだわ。そんなことより、災害に遭うかもしれん、今の仕事を失うかもしれん、と先を読むことの方が大事なのに、そんな人はほとんどいない。