「相手には迷惑をかけていない」と思っていた
斉藤 その後、弁護士さんに紹介されて当クリニックに来られたのですよね。
H はい。警察や弁護士から「絶対に病気だから専門病院に行け」と強くすすめられて。最初はどこの病院に行ったらいいのかわからなかったのですが、ほかでかかりつけだった精神科で今回の事件を素直に話してみたところ、榎本クリニックを紹介していただきました。ここで専門の再発防止プログラムを受けて、自分の認知の歪みに気づきました。以前の自分は「撮った画像をネットに上げるわけでもなく自分で楽しんでいるだけだから、人には迷惑をかけてない。相手を傷つけているわけではないから何をしたっていい」と思い込んでいたのですが、そうではないことにはっきりと気づけました。
斉藤 あと、性犯罪被害者でもある写真家のにのみやさをりさんとの対話プログラムも大きなきっかけだとおっしゃっていましたよね。
H そうですね。被害者のことを考えられるようになったのは、にのみやさんがプログラムに来て対話をしてくださったおかげだと思ってます。それで、被害者女性のその後のことを考えられるようになりました。それまでは盗撮しても相手は気づいていないから大したことではないと思っていました。でも、被害者からすると、日常の安全が脅かされる恐怖があることを知ることができました。おひとりであそこまで大勢の加害者と対話して、ある意味闘えるのはすごいと思います。にのみやさんとの対話のおかげで性犯罪被害者の心境を知ることができて、盗撮は絶対にやってはいけないことだと心から思えるようになり、過去の自分の気持ちが劇的に変わりました。
再発防止に取り組む
斉藤 今、Hさんは再発防止のためのプログラムに取り組んでいる最中ですよね。
H はい。今は、トリガーになるような性的な雑誌や動画は見ないようにしています。先ほども言いましたが、お酒もトリガーになるので外では飲まないようにし、家にいるときも妻が夜勤でいないときは禁酒しています。また、ヒマになってしまうのもいけないので、スケジュールをしっかりと組むようにしました。特に以前は日曜がヒマだと盗撮に出かけてしまっていたのを、今はペースはゆっくりですが一日8時間ほどかけてジョギングするようにしています。
斉藤 最初に盗撮をしたとき、ジョギングで前を走っている女性のお尻が目に入って撮ってしまったのがきっかけだと言ってましたが、今、目の前を女性が走っていたらどうしてるんですか?
H 基本的に自分の足元、斜め下45度だけを見て走るようにしています。それでも、もし女性が目の前を走っているのが目に入ってしまったら、二度見せずにコースを変えるか追い越すかしています。
斉藤 対処行動(コーピング)をあらかじめ自分で決めておくようにしたんですね。