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2021/08/24

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

車内にまき散らされていた白い粉

 ゼネコン営業所が銃撃されたのは午前1時過ぎだったが、幸いにも何人かの目撃者を確保することができた。付近のマンションの住民や通行人が犯人や白っぽいスポーツタイプの乗用車を目撃していたのだ。目撃者の一人は車のナンバーの一部も記憶していた。
 実行犯は男一人で、他に車の運転手がいた。犯人は営業所のシャッターに自動式拳銃で3発を撃ち込み、助手席に乗り込んで逃走した。

 その半日後、現場から約10キロメートル離れた農道に白の普通乗用車が乗り捨てられているのが発見された。車は1週間ほど前、約30キロメートル離れた宗像市内で盗まれたもので、ナンバープレートも盗難品だった。

 後部ウィンドウなどが割られ、薄くピンクがかった白い粉が、車内にまき散らされていた。消火器2本が後部座席に投げ込まれており、粉は消火剤だった。犯人は指紋等を分からなくするつもりだったのだろう。

ついに容疑者浮上

 池上の恋人が署を訪ねてきた日の夜遅くだった。帰宅したばかりの私の携帯にT班長から電話が入った。

「管理官、どうしたと思います?」

「またありましたか?」

 班長の話しぶりはどこか嬉しそうだったが、私はまた発砲事件が発生したのかと思い尋ねた。班長が嬉しそうだったのは、池上の発砲事件関与容疑が明らかになったからだった。

 恋人は暴力を振るう池上に愛想を尽かしていた。そのため池上が脱いだジャージは幸運にも洗濯されることなく、洗濯籠に入ったままだった。I巡査部長たちは早速、彼女のアパートに向かい、そのジャージの任意提出を受けていた。

 I巡査部長らが証拠品用のビニール袋に入ったジャージをよく見ると、うっすらと粉末が付いていた。白の手袋をしてそっとジャージを撫でると、ピンクがかった白い粉が付いてきた。後の正式鑑定の結果、この粉末は犯行使用車両にばらまかれていた消火剤と同一のものだった。

 池上はF組では新参者だった。恐らく実行犯ではないだろう。しかし、犯行使用車両を遺棄するのに関わったことは間違いなかった。

福岡県内の暴力団勢力図(著者作成)

 平成16年の半分が丁度終わった。前半は工藤會のやりたい放題で、県警は逆風にさらされた。だがこの時、風向きは変わった。

 7月1日、朝一番で池上の逮捕状を請求し、F組から出て来たところを恋人に対する暴行で逮捕した。

工藤會に抱いた“不信感”

 彼は元々ガソリンスタンドの店員だったが、スタンドに出入りするF組幹部らに誘われて組員となった。現実は厳しく、組当番や組長、幹部の雑用にこき使われ、ヘトヘトだった。恋人との関係もギクシャクするようになり、彼女の浮気を疑い暴力を振るうようになったのである。

 池上の父親は亡くなっていたが、母親と姉はまだ彼を見捨てていなかった。

 池上が逮捕されると、工藤會と関係の深い弁護士が飛んできた。弁護士は池上本人の暴行事件のことよりも、発砲事件などについて警察から何を聞かれたのかを聞き出そうとしたため、池上は不信感を抱いた。

 警察が池上から発砲事件のことを聞くのは、恋人に対する暴行事件の取調べが終わり、起訴等の処分が決まってからのことだ。そうでなければ、暴行事件は「別件逮捕」との批判を招きかねない。警察はまだ何も聞いていなかった。

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