権力者が大金をかけて秘密裏に行う“裏麻雀”の世界で“代打ち”として20年間無敗の伝説を持つ桜井章一氏。“雀鬼”の通称で麻雀ファンから愛され、数々の修羅場をくぐり抜けてきた男は、新型コロナウイルス感染が拡大する「混迷の世界」にいったい何を思うのか……。

 ここでは、麻雀の世界ではもちろん、カオスな時代を生き抜く上でも必要な「己の感性で判断する=勘の力」についての同氏の考えをまとめた『瞬間は勘と愛なり 混迷の時代を生き抜く力』(さくら舎)の一部を抜粋。“雀鬼”の感性の源泉に迫る。

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9年間無給のサラリーマン時代

 若い時、ある会社の社長で、男の背中を持つ、かっこいい人と出会ったんだ。

 男が男にほれるってあるじゃん。それだった。同性愛という意味じゃないよ。ひょっとしたら男が男にほれる気持ちは、女にほれる気持ちより強いかもしれない。

 その社長の誘いもあり、その人の下で働いてみたんだ。給料はいくらほしいと言われたけど、いらないですと答えた。

「え、お前お給料だよ?」「いらないです、自分ってお給料で決められるような人間じゃないんで」

 だから自由だよ。俺が会社の中で一番フリーだった。みんなお給料もらっているから窮屈だよね。

 社長は強くて怖い人だった。俺には怖くないよ。でも他の社員たちは、社長の前では、一言もしゃべらず、黙々と仕事をしている。

 そんな時、俺は何をしていたかというと、机の引き出しの中に羊羹とか饅頭とかいっぱい入っているんで、それを出して食べたり、誰かつかまえて将棋を指したりなんかしてた。

 将棋の相手になった人は社長の手前、「勘弁してください」なんて言って困っていたけど、俺は叱られたことは1回もなかった。

 結局、9年間無給で働いて、その経験が今でもすごく役に立っている。普通は働いたらお給料をもらえるのに、やってももらわないという。自分で言うのもなんだけど、こういうことをやるって、ちょっと難しいことなんじゃないかい?

 はっきりいって、仕事なんてわけなかった。簡単だった。

恥の気持ちが俺にはない

 不動産部門があったんだけど、1カ月経っても何も決まらないわけ。

 社員たちのもどかしい会議のやり取りを横で聞いていた俺は、なんで1カ月もあって決まらないんだろうと思って、翌日すぐに資料をまとめた。

 そしたら、周りの人は「桜井さんは、素人だからできたんだよ。俺らプロから見てとても難しくてできない」って言うんだ。

 俺は何をやっても素人なんだ。麻雀も物書きも素人、プロになりたいなんて思ったことはないよ。だから恥ずかしいも何もないじゃん、素人なんだから。

 プロはプロだからって自分に重しを乗せちゃう。恥ずかしいことはできないって。

 そういった恥の気持ちが俺にはないんだ。