王座戦では惜しくも挑戦を逃した飯島栄治八段だが、現在のいわゆるアラフォー世代棋士としては久々のブレイクチャンスだった。将棋界歴代最強と言われる羽生世代の面々とは年齢差が10歳足らず。本来ならば飯島の世代が羽生世代の次に飛躍しなくてはいけないはずだった。

 だが、1975年生まれの久保利明九段から1984年生まれの渡辺明名人。この両者の間に誕生した棋士は79年生まれの飯島ら26名いるが、タイトルの頂に立った人間は誰一人としていない。9年間タイトル経験者ゼロという世代は他に例がない。認められる実力者はいるのに、なぜ勝てないのか。同世代(78年生まれ)の筆者はシンパシーを感じつつ、やきもきもしている。

 後編では世代論を中心に、棋士・飯島栄治の姿を追っていきたい。

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飯島栄治八段

「同世代の一番の天才がプロになっていないから、ほかの世代との違いがよくわかっていない感じ」

――そもそも、飯島さんは「同世代」についてどう考えていますか。

飯島 久保さんは先輩ですね。渡辺さんも四段昇段が同時とは言え、さすがに同世代とは言えません。年齢でいったら上下2歳まででしょうか。同世代の中で実績が一番上なのは、竜王戦で挑決の経験がある松尾さん(歩八段)なのかな。(関西所属の)山崎さん(隆之八段)もいますけど、彼とは東西で分かれていますから、またちょっと違うんですよね。

――飯島さんの同世代の天才というと誰なのでしょうか?

飯島 う~ん、誰ですかね。小学生名人戦の決勝で負かされた相手は天才だと思ったんですけど。

――アマ強豪として知られる、清水上徹さんですね。

飯島 僕が小学生名人戦で、1学年上の千葉さん(幸生七段)は中学生名人戦の決勝で負かされています。

――清水上さんは小、中、高、大の全てで学生タイトルを取り、社会人になってからも数多くの全国大会を制覇されています。対プロ戦でも、アマチュアとして初めて朝日杯の1次予選を通過された実力者です。

飯島 ただ、彼は奨励会を落ちた時点ですっぱりとプロの道を断念されたと聞きました。そうなると戦っている場所が違いますから、比較はできない。同世代の天才だと、やはり松尾さんですかね。

――なるほど。

飯島 あと、三段リーグの存在は大きいと思います。リーグ表をみて自分がそこを抜けるという図が想像できませんでした。人生のすべてをギャンブルに賭けることに、家族は同意しませんでしたし、僕も人生の保険をかける必要があったので高校に行きました。将棋一本だったら……という思いはあります。それでも渡辺さんや藤井さんのような中学生棋士の存在を考えると、言い訳でしかないのでしょうが。