神奈川県座間市のアパートの一室で9人の遺体が見つかりました。この事件の容疑者と被害者との接点は、「自殺サイト」だと言われています。自殺をテーマにした掲示板やチャットではなく、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)、しかもTwitterでした。ハッシュタグ機能を使えば、同じ趣味嗜好の人とつながることができる。誰もが利用しているSNSが舞台になったため、今回の事件は衝撃を与えています。
投げかけられる二つの問い
私は1998年以来、インターネットと若者のコミュニケーション、居場所、自殺をテーマに取材を続けています。そのため、今回の事件でコメントを求められることが多くなりました。とりわけ「どうしてSNSに死にたいと書き込むのか?」という質問が多かったのです。
ここには二つの問いがあります。なぜ「死にたい」とネットに書き込むのか。そして、その場がなぜ、SNSなのか。
「死にたい」と書き込む理由は人により様々です。程度の差はあれ、自殺願望を持っている人は、その瞬間的な感情を書き込むことで自分の心境を整理している場合もある。また、書き込むことで「誰かに話を聞いてほしい」という心理が働いていることもあります。
自殺の話題は、現実(リアル)の人間関係では避けられる傾向があります。そのため、引かれないように現実では話さず、ネットに話し相手を求めるのです。また、現実に相談相手がいたとしても、納得がいくやりとりがしたい場合にはネットでつながりたいのです。
さらに言えば、「自殺の話ができるネットの知人」という位置だけにとどまらず、実際に会いたいと思っても不思議ではありません。これまで取材した経験からいうと、「ネットの知人」が恋人になったり、「ネットの知人」と結婚をした人も少なくありません。また、自殺をしないと決めた人もいますし、死にたいと思いながらもなんとか生きる術を見つけた人もいます。
私が取材した、ある30代男性のケースを紹介します。一度は集団自殺の計画を立てようとしたが、止める側に回った話です。
彼は離婚と借金を理由に「死にたい」と考え、「一緒に死にませんか?」と集団自殺の参加者を募集しました。すると、多くの返事があったのです。計画を立て、役割分担を決めようと思いました。自分自身は睡眠薬を持っている。そのため、他の人には、手段や道具、場所としての車、あるいはアパートやマンションの部屋を提供してもらいたいと思っていました。しかし、他のメンバーは役割分担を嫌って、「すべて用意してほしい」との返事でした。そのために、男性はグループを解散させました。
その後、別の呼びかけもしました。返事があった中には、16歳の女子高生がいたのです。座間市の事件でも、犠牲者の中には10代が含まれているとの報道もあります。話を聞いた男性は、「なんとか助けたい。自殺を止めたい」と思うようになります。彼女の悩みに共感したためです。自殺をテーマにしたやりとりで「共感」はキーワードの一つです。座間市の事件での容疑者も、共感をうながすような態度を装って犠牲者に接触していたのではないかと思われます。