八月も終わろうとしているのでやや季節はずれなのだが――夏といえば怪談だ。

 映画でも怪談ものは数多く作られてきた。観たことのない方からすると、テレビ番組の心霊特集のようにお化けや超常現象を仰々しく見せて怖がらせるだけの内容と思われるかもしれない。そのため、ホラー系が苦手な場合は避けたくなるジャンルだろう。

 もちろん、そうした要素もあるのだが、それだけではなかったりする。というより、メインはそこではない。

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 怪談映画を最も多く作ってきたのは、一九五〇年代の終わりから六〇年代初頭にかけての新東宝で、中でも中川信夫監督はそのエース的な存在だった。そして今回取り上げる『怪談かさねが渕』は、中川監督の怪談映画の魅力を心ゆくまで堪能できる一本だ。

1957年(66分)/ビームエンタテインメント(他レーベル製品もあり)/4800円(税抜)/レンタルあり

 金貸しを生業とする盲目の按摩・宗悦は旗本屋敷に返済の催促に向かうが、返済を拒む旗本に斬り殺されてしまう。宗悦は亡霊として現れ、旗本を「かさねが渕」に引きずり込んでいった――。

 それから二十年の歳月が経ち、旗本の息子の新吉(和田孝)は商家に預けられ、主人の娘・お久(北沢典子)と将来を誓う間柄になっていた。そんな新吉にお久の三味線の師匠・豊志賀(若杉嘉津子)が接近。実は豊志賀は宗悦の遺児だった。お互いにそのことは知らず、二人は惹かれ合う。

 それだけなら、過去の因果を超克しようとする男女の話として美しいのだが、そう甘くはない。豊志賀に横恋慕する浪人・陣十郎(丹波哲郎)が奸計により新吉につけこみ、二人の関係は崩壊していく。

 中川の怪談映画において、あくまで恐ろしいのは人間のエゴだ。亡霊たちは、理不尽に虐げられて蹂躙された無力な人々の、せめてもの抵抗と復讐の手段なのである。つまり、そこに描かれるのは因果応報であり勧善懲悪。亡霊たちの存在は怖いというより、むしろ痛快とすらいえる。

 ただ、エゴに生きる人間というのは、どこかカッコよく映るから厄介だ。それは、我々の中に抑えられた欲望を具現化した姿だから。「あんなことやってみたいな」という憧れを抱いてしまうのだ。しかもその悪っぷりを演じるのが本作では丹波、中川の代表作『東海道四谷怪談』では天知茂、いずれもピカレスクな魅力をまとった名優たちだ。それだけにそれが悪と分かっていても感情を寄せてしまい、最終的に敗れる様を観ていると無念に思えてきたりもする。

 最終的に痛快に思うにせよ、無念に思うにせよ、中川の怪談映画はただ怖がらせるだけではないということは確かだ。なので、苦手にしてきた方も、ぜひ挑戦してほしい。

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