意地と意地のぶつかり合い
開始の笛が、雨のグラウンドに響く。それと同時に、伏見工業は攻めた。がむしゃらに、前に出ようとした。1年前にズルズルと後退させられたスクラムは、互角になっていた。花園高校の攻撃を、足元に突き刺さる低いタックルで防ぐ。ケガをも恐れない。まさに、執念だった。ボールを奪えば、15人がひたむきに走り、パスをつないだ。全国の強豪校の一つに数えられた花園高校も譲らない。意地と意地が、ぶつかり合った。
しばらくすると、どちらのチームか区別がつかないほどユニホームは泥まみれになった。密集での争奪戦は激しく、側頭部から流血した伏見工業の選手が、グラウンドの外に運ばれてきた。手当をしようと、負傷箇所を見たマネージャーの今井裕子は思わず息をのんだ。
「耳の半分がベロンとはがれていました。私にはどうすることもできなかった」
耳を固定するようにして、テーピングで頭をぐるぐる巻きにする。山口は「もう大丈夫や」と、再びグラウンドに送り出した。
前半は8-4とリードして折り返した。
痛みや苦しみ。疲労感まで忘れるほど、試合にのめり込んでいた。荒木は、足がつり、体は限界に近づいていた。それでも水たまりのある重いグラウンドを、最後まで気力だけで走り続けた。
勝ちたい。1年前に、完膚無きまでに叩きのめされた相手に、借りを返したい。ただ、その思いだけだった。試合は12-12の同点のまま、残り時間は5分を切った。雨は次第に強まっていった。
すると、ついに花園高校の足が止まった。
小畑は叫んだ。
「走るんや! 最後まで攻めるんや!」
スタンドにいた山本は、鳥肌が立つ思いだった。
終了まで残り数分。小畑が蹴ったボールを、全員が必死の形相で追う。一人も諦めている者などいなかった。15人の思い、山口の思いが、結束し、雪崩のようになって敵陣へ襲いかかった。終了間際、ついに伏見工業にトライが生まれる。ゴールも決まって18-12。最後は花園高校の怒濤の攻撃を、勢いよく頭から体を投げ出した小畑が止める。
そして、ノーサイドの笛が鳴った。