中国人捕虜「マルタ」への人体実験をしていた731部隊
破傷風ワクチンは、連合国側では開戦時にはすでに開発済みで、アメリカ軍兵士は戦地で破傷風のために死ぬケースはほとんどなかったという。日本側にはワクチンはまだなく、開発を急いでいたという背景を示す文書が見つかっている。
細菌兵器の研究や中国人捕虜「マルタ」への人体実験をしていたとされる731部隊(関東軍防疫給水部・旧満州のハルビン)でも、破傷風ワクチン開発のために人体実験を行っていた極秘資料が見つかった。破傷風の毒素を「マルタ」に接種して筋肉の電位変化を測定した実験では、被験者14人全員が死亡していた。こうした731部隊の研究が、南方軍防疫給水部にも引き継がれたという。
松村高夫・慶應義塾大学名誉教授が番組で解説する。
「731部隊の人脈がそのまま南方軍給水部の創始者になっている。大連の731部隊支部ではワクチンの研究が盛んだった。大連にいた倉内喜久雄は、バンドンの(南方軍給水部の支部の)初代の所長になっていた」
番組では、太平洋戦争の開戦と同時に731部隊の多くのメンバーが南方軍防疫給水部の設立に関わったという事実が報告されている。彼らはシンガポールやバンドンでワクチン開発を続けていた。南方軍防疫給水部でも、細菌兵器の開発が行われていたと陸軍省業務日誌には記されている。
「粟は南方において発育良好なり」「繁殖力も大なり」「種餅を1回輸入すればあとは現地自活も可能なり」
琉球大学の高嶋伸欣名誉教授は「ノミを“粟”、ネズミを“餅”という言い方は、ああいう研究の通例」と説明する。「本来の防疫給水とは違う、国際法に違反する作業をしていたということが裏付けられている」と明言。高嶋さんによると、ペスト菌を注入したネズミにノミをたからせ、細菌兵器となる大量のペストノミが製造されていたという。
マルタがいないから労務者が実験対象に?
松村さんは、インドネシアの大量死事件を読み解くには、石井四郎に連なる731部隊の人脈のつながりが重要だと指摘する。
「開発したものが日本軍兵士にとって効くかどうかは、(もし731部隊にとっての)マルタがいれば、そこで人体実験してから(日本軍兵士に使用)という話になったと思うけど、南方軍の場合、マルタはいない、(マルタを)確保していないので、それでとりあえず効果があるかどうかを労務者に打ってみて、その結果がよければ日本軍兵士に打つと。労務者を使って効果があるのかどうかの実験をしたと思います」