「歌織はお嬢様だから携帯電話も持っていない」
祐輔さんは二浪の末に入った大学を卒業後、司法試験や公務員試験に挑戦するも挫折。法律事務所で時給1000円のアルバイト暮らしで、定期代を払う金もなく、アパートも借りられずに友達の家を転々としていた。
「借金が300万円あるんだ。歌織にばれたら死にたいくらい恥ずかしい」
学生時代にスロットにはまった時のカードローンの借金がふくれあがり、さらに育英会で借りた奨学金も返していかねばならない。それでも毎日祐輔さんは言っていたという。
「俺はビッグになってやる」
だが、どうやってそれを実現するかはまだはっきりしない。その時の祐輔さんにとって、歌織は今よりも上のステージに自分をひきあげてくれる存在のように映ったのかも知れない。
「歌織はお嬢様だから携帯電話も持っていない。ブランドも好きじゃないんだ」
北九州市で暮らす祐輔さんの両親はこう聞いた。二人は出会って4カ月後に入籍したが、その報告はハガキ1枚だけだったという。
祐輔さんは当時月収15万円だったが、「歌織が広い部屋でないとだめだと言うから」と家賃12万円の部屋を借りた。歌織は結婚を機に退職した。
何もかもが幻想だったことはほどなくして明らかになる。歌織は丸紅の社員ではなく派遣社員として短期間働いていただけであった。だが、直筆の履歴書には大学卒業後ずっと丸紅で働いていたという嘘を書いていた。ブランド品の万引きの常習犯として逮捕され、祐輔さんに鼻の骨を折られたといってDV被害者保護のシェルターに逃げ込んだ時も施設から勝手に抜け出して高価な靴を祐輔さんのカードで買った。裕福そうだった独身時代の暮らしも、父親ほど年の離れた男と愛人関係になり援助してもらっていたものだった。学生時代は新潟で小さなコピーサービスの会社を営む実家から月40万もの仕送りをもらっていたので生活には困らなかったのにも拘わらず、ソープランドでアルバイトもしていた。
「なんで?」
祐輔さんは死の直前にこう言ったと歌織は証言している。