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50代から始めた「小さな店作り」 “私らしく働く”ために奮闘する女性を待ち受けていた数々の“困難”とは

50代から始めた「小さな店作り」 “私らしく働く”ために奮闘する女性を待ち受けていた数々の“困難”とは

『年34日だけの洋品店 大好きな町で私らしく働く』 より#1

2021/09/08
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早期退職は「引き返す道」を残して

 この頃、私の周辺でも、50歳前後で退職する人がチラホラ出てきた。日本人もイギリス人のように早期リタイアして、残りの人生を楽しもうと考える人が増えたのかもしれない。そういう人たちはどちらかといえば責任ある役職に就き、頑張ってきた人に多いようだった。

 面白いのは、その多くが「個人事業主になりたい」とか「地方へ移住」など、これまでとガラリと違う道へ進もうとしていることだった。

 ところが、しばらく経って会ってみると、元の仕事に嘱託として戻ったり、再就職したりしている。嘱託、パート、契約社員と形を変えても、馴染んだ職場で働き続けるメリットは、精神的にも大きい。辞めてみて、古巣への愛着や必要とされる喜びを再認識したのだろうか。

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 考えてみれば、進む決意は自分の腹づもり一つだが、うまい戻り方は誰も教えてくれない。早期退職する場合は、引き返す道をどこかに残しておく方が賢明だと思う。

収入と支出の折り合いは?

 お店を始めるため、次に考えるべきはお金のことだった。代表を辞めて嘱託(相談役)となり、当然収入は目減りした。それでも私の場合、収入より何をおいても自由に働きたい気持ちが強かった。

 お金はいくらあっても邪魔にならないとは父の口グセだったが、そこそこの給与をもらえば、私より長時間働いている従業員に後ろめたさも感じる。

 堂々としたいことをするために、何としてもそんな状況は作りたくなかった。