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「今回のオリパラでは、ルックスや私生活に過度にフォーカスした報道は減った手応えがある」 元オリンピアンが進めたいジェンダー偏見のない、ありのままのスポーツ報道

2021/09/06
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 1996年のアトランタオリンピックに競泳日本代表として出場した井本直歩子さん。現役引退後はユニセフ職員としてギリシャやハイチに赴任し、国際協力活動を行っている。東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会のジェンダー平等推進チームのアドバイザーに就任した井本さんは、8月26日、ジェンダー平等のためのスポーツ報道について会見を開いた。女性アスリートの報道にはどのような問題があるのか、寄稿してもらった。(全2回の2回目。前編を読む)

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 それから「美しすぎる」「イケメン」などの言葉は、「スポーツなのにビジュアルで評価してよいのか」という考えの他に、メディアが「美の価値観」を押し付けるべきではない、というルッキズムの問題もはらみます。「美しさ」「女らしさ」「イケメン」の基準をメディアが勝手に押し付けることは、本来ある多様な「美しさ」「かっこよさ」の見方、感じ方を狭めてしまうため、「自分らしさ」を追求するジェンダー平等の概念に反するものです。でも観る人が「綺麗」「ハンサム」と思うのはもちろん主観だから自由です。

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©iStock.com

 外見で価値判断をするルッキズムへの対抗は、スポーツにおいてとても重要です。なぜならスポーツは、かっこいい女性、力強い女性を輝かせてくれる、貴重な存在だから。強い、筋肉質、たくましい、芯が強い、負けず嫌い、リーダーシップがある、といった女性に偏見なく憧れることができる機会なんて、世の中にはまだまだ少ない。多様な女性アスリート像を写し、そういった女性がロールモデルになれる、またとないチャンスなのです。昭和感覚の女らしさの押しつけに満ち溢れた日本社会に、スポーツは一筋の光を当ててくれる存在であるべきです。

 例えば今回の五輪で、男女混合種目が増えました。金メダルを獲った日本の卓球のペアもその一つです。伊藤美誠選手と水谷隼選手のコンビは、水谷選手が伊藤選手のことを「ホントに『大魔王』って呼ばれるぐらい、むちゃくちゃ強いですから。だから隣に立ってる時は、もう大魔王だと思って接してるんですよね」と言うほど、コートにおいても伊藤選手が主導権を握っている。スポーツという伝統的に男性優位なフィールドでこれを見せたことは、とても大きな意味があると思います。

表彰台で金メダルを掲げる水谷と伊藤 ©JMPA

 それなのに、女性アスリートがせっかく力強いパフォーマンスで勝った後のテレビ番組で、「結婚願望」とか「彼氏」の話題を振る司会者やコメンテーターがいる。「あんなに強いのに中身は可愛い女の子」という印象を植え付けて、わざわざ「女らしさのあり方」の偏見を再生産する。メジャーリーガーの大谷選手にも同じ質問をしますか? と聞きたいくらいです。

 また、某主要スポーツ雑誌の五輪特集号では、男性アスリートの写真は筋肉美を強調した競技の写真ばかりなのに対し、女性メダリストたちはなぜか私服を着て笑っている写真がトップになっていることも目にしました。写真を選ぶ時に、女性アスリートの映し方に、男性と比べてジェンダーの偏見が入っていないか? と、立ち止まって考えて欲しいと思います。

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