藤井    そうですか? いや、自分ではあまりそういう意識はなかったです。

 自分の目標というのは、相対的なものではなくて、基本的に絶対的なものなんです。例えば「最強の棋士」になりたいとかであれば、周りに関係なく自分次第でできることなので、言ったことで何かマイナスの影響があるといったことなどは、別にないのかなと思います。

丹羽    でも最年少棋士だった藤井さんが、目標を「最強の棋士」と言って、意地悪な先輩から、こいつ小生意気だな、ちょっといじめてやれみたいなことはなかったんですか?

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藤井    いやいや、それは全然ないです(笑)。

写真提供:日本将棋連盟

少し悲観的なくらいが勝負に集中できる

丹羽    藤井さんは、棋士として自分をどのようなタイプだと考えていますか?

藤井    そうですね……、よく聞かれることとして、対局中は楽観派か悲観派かという質問があるんですが、どちらかといえば自分は悲観派かなと思っています。

丹羽    それは勝負においては、いいことなんですか?

藤井    難しいですね。悲観することで、局面が正しく評価できなくなってしまってはまずいんですけど……きちんと読んだのに読み抜けがあるんじゃないかなどと、猜疑心を持った思考に入り込んでしまうのはよくないです。ただそうでなければ、楽観的に自分が勝つイメージを持つよりも、少し悲観しているくらいのほうが勝負に集中できるような気はします。

©文藝春秋

自己分析では「研究者7、勝負師2、芸術家1」

丹羽    谷川浩司さんが、将棋の棋士には三つの側面がある。研究者であり、勝負師であり、芸術家であると、著書に書かれているそうですね。谷川さんが言う芸術家というのは、とくに詰将棋の創作においてのことのようです。藤井さんは詰将棋の創作もされています。この三つの比率なんですが、藤井さん自身は、どのように自己分析をしていますか?

藤井    うーん、自分のイメージでは、研究者7、勝負師2、芸術家1という、7:2:1ぐらいかなと思います。

丹羽    研究者としては7、勝負師としては2というのは、思ったより大きな開きがあるね。どのように分析されているわけですか?

藤井    基本的に「最善手に近づく」のが、勝ちに近づくのとほぼイコールなんです。もちろん勝つことが最終的な目標ですが、それを最初から意識する必要はないという考え方をしています。ですので互角以上の局面であれば、研究者としての自分のままでよくて、わざわざ勝負師として考える必要はないのかなと思っています。

丹羽    面白いね。対局がずっと五分と五分で進んで、どこかで差がついて、藤井さんが不利になることもありますね。そのときは?