2016年10月1日、中学2年生、わずか14歳2ヵ月で棋士デビューした藤井聡太氏。以来、異例の快進撃を続ける彼の脳内はいったいどのような考えが詰まっているのか。

 ここでは藤井聡太三冠、初の対談本『考えて、考えて、考える』(講談社)の一部を抜粋し、同氏ならではの将棋観を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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コンピュータで得た情報を鵜呑みにしない

丹羽    藤井さんが将棋にコンピュータを取り入れたのは、何歳くらいの頃から?

藤井    自分が将棋を始めた五歳頃からすでに、インターネットを通じて人と対局する「ネット将棋」がけっこう盛んでした。小学二年生の頃からは、自宅の家族共有のパソコンでネット将棋をやっていました。

©文藝春秋

丹羽    パソコンか。スマホではなかったんですね。

藤井    はい。その後、奨励会の初段、二段の頃、自分はどうすればこれ以上強くなれるのかといった閉塞感を感じていました。「AI」を使い始めたのは、奨励会三段、中学一年生の頃(2015年)です。

丹羽    それは対局して帰ってきて、自分のその日の将棋を全部入れてみて、その時々の評価値を、「この局面は自分が思っていたより厳しかったんだな」などと知るという、そういう使い方ですか?

藤井    そうですね。対局中の自分の形勢判断と照らし合わせてどうだったかとか。あるいは自分の気付いてない筋があったかとか、そんな感じです。基本的にはそれを毎局やっています。

タイトルを目指すよりは、実力をつけたい

 そしてAIがすごく強くなってきたのが、2017~18年くらいからで、今までの自分の将棋にはなかった感覚と出会えました。将棋というゲームの可能性をすごく感じることができたんです。

 次第に、勝ち負けにこだわらず「いい勝負をしたい」と、気持ちが変化していきました。これはAIだけがきっかけというわけでもないんですけど、結果、精神的にいい影響があったかなと思います。

 今の自分だととくに、結果を求めるよりも、さらに実力をつける段階だと思っています。タイトルを目指すよりは、実力をつけたい。実力がつけば、タイトルという結果は後からついてくると思うからです。こういうふうに思えるようになったのは、本当にここ数年のことなんですが……。

丹羽    今までになかった感覚には、棋士の皆さんが「これは人間が指せる手じゃない」、「気持ちの悪い手」などと感じるようなAIの指し手のことも含みますよね。そういうものも、藤井さんは取り入れるということですか?