14歳2ヵ月で最年少棋士となって以来、次々と最年少記録を塗り替え続ける藤井聡太三冠。そして、伊藤忠商事会長・社長、日本郵政株式会社取締役などを歴任した稀代の名経営者、丹羽宇一郎氏。

 年齢・職業は違えど、それぞれの分野でトップランナーとして活躍し続ける両氏による対談の様子をまとめた『考えて、考えて、考える』(講談社)は、藤井聡太三冠初の「対談本」として、多くの人の注目を集めている。ここでは同書の一部を抜粋。天才棋士の“考え”に迫る。(全2回の1回目/後編を読む)

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プロになってから痛感したこと

丹羽    棋士になってからと、なる前で、人生観は変わりましたか?

藤井    あまり人生観といえるほど、はっきりしたものはないんですけど……。奨励会の頃は、棋士になることが唯一の目標でした。棋士になることができれば、対局で収入を得られるわけですし、正直言って気持ちの面でも楽になるのかなとの思いもあったんです。

丹羽    それは、好きな将棋で食べていけたら楽しいだろうなみたいな、明るい面だけを見ていたというようなことですか?

©文藝春秋

藤井    そうですね。奨励会の時点ですでに、棋士になった後の具体的なイメージ、目標などを思い描く方も多いと思うんですけれど、自分の場合は全然そんなことはなくて、なんとなく漠然と棋士になれたらいいなという思いでした。それ以上のことはあまり考えていなかった気がします。

 でもいざ棋士になってみると、それはやはり少し違うというか、棋士になったからといって、楽になったらいけないんだなとは感じました。

記録はそれほど意識していなかった

丹羽    藤井さんの場合は、棋士になったのが中学二年生のときだし、漠然としていて当然だと思いますけどね。棋士になったことで、常に次の壁、次のステップが、目の前にどんどん続いていくことに気付いたという感じでしょうか?

藤井    そうですね。棋士になってから、目標は自分で設定して、それに向けてやっていく必要があるんだなと痛感しました。

©文藝春秋

丹羽    デビューから記録ずくめで、プレッシャーもあったんじゃないですか?

藤井    記録はそれほど意識していませんでしたが、中学生棋士の名に傷をつけないようにという思いはありました。十四歳の頃、「最年少タイトルには挑戦したい」と話していたようです。自分では覚えていなくて、棋聖戦後の記者会見で記者の方から聞いたのですが、実現できてよかったです。

丹羽    藤井さんは有言実行ですね。勝負の世界においては、不言実行が美徳のように思われていた時代があります。でも藤井さんはどちらかというと、最初に強い言葉をポンと出して、それに向かって突き進んでいく、有言実行タイプですね。