このことは2002年6月に開催された、緊急ロヤジルガ(アフガニスタンに伝統的な「全国長老・部族有力者会議」のような存在)ではっきり出てきました。アメリカは、ハミド・カルザイ(初代大統領)を国家元首にしようという方針をはっきり持っていて、これに異を唱える人々を、アメリカが脅して回ったのです。それを見て、アフガニスタンの人々に「結局、自分たちの意見は聞いてもらえない」という思いが広がってしまいました。
民主主義について本当にヨチヨチ歩き以前、まだ乳飲み子ですらなかったアフガニスタンにおいて、民主的な体制を構築しようとする大プロジェクトが、いきなりおかしな方向に進んでしまった。「民意に基づくのが民主主義の大前提」のはずが、アメリカがむしろ民意を封じ込めるような動きをしたことで、大いなる幻滅をアフガニスタンの人々は感じてしまったのです。
〈ロヤジルガは選挙で代議員が選ばれるわけではないが、一種の議会的なもので、これを活用することで、正式な大統領選挙の準備が整う前に国家元首を選び、民主主義の第一歩とできる……と当時捉えられていた。田中さんによれば、ロヤジルガの参加者の間で最有力だったのは、宮廷クーデターで廃位となるまでその地位にあったザヒル・シャー元国王だったが、英語堪能でアメリカとも話ができるカルザイの国家元首就任に、アメリカは強引にこだわったのだ〉
「大いなる幻滅」はなぜ生まれたのか
田中 アメリカのブッシュ政権としては、2004年のアメリカ大統領選挙に向けてサクセスストーリーを欲したわけです。そのために、アフガニスタンの大統領選挙もギリギリ間に合うタイミングで行った。その結果、「現地は万事うまくいっており、何も修正する必要がない」という自明の前提を作ってしまうことになり、思考のトラップに陥ってしまった。これは日本の原発の安全神話――安全に作ったのだから安全を疑う議論自体が許されない――と同じ構図です。そこから修正のタイミングを失ってしまいました。
高木 ブッシュ政権の後を継いだオバマ政権で増派も行われましたね。
田中 これだけの死者を出して、多くの戦費を払ったアメリカには非常にきつい言葉になりますが、明らかにやり方を間違えた。これは私も現場に行って見聞きしていましたが、その増派が進む中で、とにかくいろんな人にお金をバラまく。それによって人々の忠誠心を買おうとする。これはアメリカがイラクでもやっていたことですが、少なくともアフガニスタンにおいては、そのお金のかなりの部分がタリバンに流れ、軍閥の長老格のポケットに入り、その後問題になる汚職の元になりました。
中国・ロシアに利用されてしまった「テロとの戦い」
高木 正直なところ、私も含めてアフガニスタンへの注意関心が少し薄れていたところに、予想外の早さでカブール陥落になり、多くの人がショックを受けたと思います。そもそもアメリカが20年前に「アフガン戦争を始めたこと自体がよくなかったじゃないか」という声もあります。しかし、私はあの9・11の後の状況ではあれしか選択肢がなかったと思っているのですが。
田中 あの攻撃は、国連憲章に定められた個別的自衛権の行使、NATO憲章第5条に基づく集団的自衛権の行使をはじめ、法的な枠組を踏まえています。ただ、相手が国家ではなかったわけです。