アメリカの作り上げた「タリバンのナンバー2」という虚像
〈それでは、現在のタリバンでは誰が権力を持っているのか。20年前のタリバンは、創設者で絶対的なカリスマであるオマル師が全権を掌握し、評議会である「シューラ」を率いていた。そのオマル師は2013年に病死し、次の指導者も2016年に米軍の攻撃により死亡、その後は3代目となる、ハイバトゥラー・アフンドザダ師が指導者の座についたとされる。副官として、タリバンの最強硬派「ハッカーニ・ネットワーク」という武装集団を率いるシラージュッディン・ハッカーニ師、オマル師の息子で「軍事委員会」の長と呼ばれるヤクブ師、さらには、カタールの首都ドーハの事務所にはバラダル師が配置されていた。
この中で、最近の報道でよく見かけるのがバラダル師。トランプ政権以来のアメリカとの交渉に出席し、最近は訪中して王毅外相と会談するなど、タリバンの表に出てくるメンバーでは最高位と言える。国際舞台に姿を見せているためか、「穏健派」とも言われる〉
高木 近年のタリバンの権力状況について、田中さんはどうみていますか?
田中 最近のタリバンには、パキスタンのクエッタ――これはアフガニスタンのカンダハルに移りつつあると言われますが――、同じくパキスタンのペシャワル、カタールのドーハと3つの拠点がありますが、このドーハ事務所がどれぐらいの発言力を持っているのかよく分かりません。
最近ドーハからカブールに入ったと言われるバラダル師を「タリバンのナンバー2」と言うこともありますが、彼は複数いる副官の一人でしかなく、ナンバー2だというのは、アメリカの一方的な宣伝です。確かにバラダル師は、オマル師がタリバンを作った時からの盟友で、一時期その右腕と言われる地位にいたとみられますが、あれからもう20年たっている。その間、8年余りパキスタン軍に捕らわれていた。それがいつの間にかアメリカの差し金によって釈放され、政治交渉のヘッドになっていました。
つまりアメリカが交渉のため、都合のいい人物を盛り立ててきたのです。彼を「ナンバー2」に仕立てることはアメリカ側にはメリットがある。タリバンからすれば、もともとアメリカと交渉することは本意ではないのですが、アメリカが早く出ていくように仕向けるためには、交渉しているように見えた方がいい。つまりタヌキとキツネの化かし合いをやりながら、アメリカはすべてが上手くいっているように見せているのです。こうした実情はバイデン大統領にも届いていないと思います。
(#2に続く)