文春オンライン

「BOØWYの『Marionette』は矢沢永吉にも通ずるヤンキーの価値観の曲」 KGDR、Dragon Ash、浜崎あゆみはなぜ“ヤンキー”に愛されたのか

2021/09/17

00年代、「悪さをしないヤンキー」が増加

――00年代は、威圧的なファッションが特徴のオラオラ系のヤンキーが増えた時期でした。

斎藤 ほとんど90年代の延長線上にあると思います。ただ、90年代のヒップホップやラップの音楽にルーツがあった家族主義、仲間主義、気合主義みたいなものがより全面開花したのが00年代でしょう。この流れを象徴するのがダンスユニット「EXILE」の人気でした。オラオラ的な不良っぽさもありつつ、天皇即位20周年の奉祝曲はサングラスを外して歌うようなお行儀の良さもある。

 00年代以降はロストジェネレーションで若者たちが弱者になっていたので、従来のヤンキーカルチャーは維持できない状況に追い込まれたのです。00年代のヤンキー音楽と言えば「氣志團」、あるいは「DJ OZMA」も重要な存在ですが、ボーカルの綾小路翔さんによれば、パロディの文脈が複雑すぎて一般のヤンキーファンはほとんどいなかったそうです。

ADVERTISEMENT

 また、集団で人に迷惑をかけるようなヤンキーはすっかり減っていたのも特徴です。“悪さをしないヤンキー”、いわゆるマイルドヤンキーが一般化していった。ヤンキー的と思わせるのも、威圧的なファッションと、ちょっとした逸脱行為のみ。例えば、バーベキューでどんちゃん騒ぎをして、周囲に騒音被害やゴミ被害をもたらす程度の悪さはしても、一般人に無軌道で暴力行為を働くというような、過剰に人の道から外れるようなことはしないというところでしょうか。地元から出ずミニバンでイオンに通い、家ではミニチュアダックスを飼う、といった保守的なライフスタイルを送るマイルドヤンキー層が一気に分厚くなったのもこの時代ですね。

ヤンキーファンが多い浜崎あゆみ

――そんな00年代のヤンキーたちに好まれたのは、どんなミュージシャンだったのでしょう。

斎藤 もちろん、さきほど挙げた「EXILE」が突出していますが、ヤンキー音楽史的に重要なのは浜崎あゆみさんではないでしょうか。浜崎さんの音楽はヤンキー的ではありませんが、それでもヤンキーのファンが非常に多かった。

浜崎あゆみ ©️文藝春秋

――1998年デビューの浜崎あゆみさんは00年代には国民的な歌姫となっていました。2000年にデビューし00年代中期にブレイクした倖田來未さんも同じ路線ではないでしょうか。浜崎さんや倖田さんは、ヤンキーの世界とは縁遠いところにいる人にも好まれていた印象があります。

斎藤 そうですね。00年代前半に取材を兼ねて浜崎あゆみさんのコンサート会場に出向いた際、本当に客層が幅広くて驚いた記憶があります。改造車が会場を取り巻いていたりもしていましたが、その持ち主たちも普段は普通に仕事をして家族を持っているようなヤンキーたちだったのではないでしょうか。