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幽霊が蘇らせた、小さな村の廃教会

幽霊教会 チェコ共和国/パルドゥビツェ州

 東欧チェコ共和国のルコヴァは、首都プラハから車で約2時間ほどの山間部にある小さな村。いかにもヨーロッパの田舎というべき美しい村の中心に、聖ジョージ教会はある。教会は1352年に建造されたが、直後から不審火や事故が相次ぎ、修復を続けながら運営された。しかし1968年、葬儀の最中に天井が崩落するという惨事が発生。人々はこの「呪われた教会」を恐れて放棄し、以後40年、廃教会となった。

2018年の段階で300万円程度の寄付が集まり、その資金で崩落した天井を修復した。最近では時折ミサも開けるようになったという。 ©佐藤健寿

 そんな教会の状況に変化が訪れたのは2010年頃からである。村の人々は教会の歴史的価値を省みて、修復の検討を始めたのだ。しかし修復にかかる予算は膨大で、とても調達の目処は立たない。そんな中、村出身で美術大学に学ぶ、ヤクブ・ハドラヴァが声をあげた。彼は教会を無理に修復して取り繕うのではなく、むしろ奇妙な歴史と景観を生かすことを提案。教会の中に30体あまりのリアルな人間大の幽霊彫刻を置き、不気味ながらも美しい幽霊インスタレーションへと仕立てたのである。

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幽霊は石膏と布で作られたシンプルなもの。一人一人姿やポーズが微妙に異なっている。最初は9人の幽霊が置かれていたため、「9人の幽霊の教会」などとも呼ばれていたが、のちに増え始め、今は32体の幽霊が置かれている。 ©佐藤健寿

 その光景はネットを中心に話題となり、それまで観光客さえほとんどいなかった教会に多くの人々が訪れるようになる。現在は少しずつ寄付も集まり、ようやく修復の目処も立ち始めているという。毒を以て毒を制す。あるいは火を火で治める。そんな言葉さえ連想させる幽霊たちの存在は、教会の悲惨な歴史を奇妙なユーモアで浄化するようにも見えて、不思議と幽玄な佇まいに映ったのだった。

奇界遺産3

佐藤 健寿

エクスナレッジ

2021年5月19日 発売