それにしても衆院選にはシラけた。政治家のレベル低下を象徴するのが、彼らの悪相と薄っぺらな言葉だ。「謙虚」「丁寧」を連発する安倍晋三や、妙な英語を意味なく演説中に使う小池百合子。
だから、いま私は篠原涼子の『民衆の敵』に共感してしまう。時給九五〇円の生活に甘んじていた主婦が、理不尽な理由で職場をクビになったら、同じ非正規雇用の夫(田中圭)も、職場を辞めた。
夫婦して無職。保育園に通う息子のためにも、次の仕事を見つけなくちゃ。佐藤智子(篠原涼子)がパソコンで必死に職探しをしてたら“市会議員になれる確率は八割以上”の情報があった。正社員になれる確率は一割だ。おまけに議員の年収は九五〇万円。
これだ! 智子はなけなしの五〇万円を払って、選挙に出馬する。ここから一気にドラマが動きだす。
駅周辺は有力候補の選挙カーがずらり。先乗りした場所にも、与党の新人候補が。元総理も応援に。祖父は閣僚、父と兄は衆院議員。「政治家になるべくして生まれた」候補ですと紹介する。
それを聞いた智子が、選挙演説のマニュアル集をパタンと閉じた。トラメガで「私は高校中退です。父親はギャンブル狂いで、母親は男にだらしないホステス。生まれるべくして生まれた“高校中退”です」と語りだす。
時給九五〇円が幸福な生活だと思いこもうとしたけど、もう嫌だ。「ウチの息子はタマゴ焼きをステーキと思って食べている」。でも本物のステーキが食べたい。そういう幸福な生活がしたいの。
しばしの沈黙の後、“生まれながらの政治家”である新人候補の藤堂誠(高橋一生)が笑みを浮かべて拍手し、通行人からも大きな拍手が。
これですよ。憤りや理想を自分の言葉で喋れば、民衆の心に届く。高校中退。九五〇万円を目当てに立候補した智子は、ママ友たちに支えられ当選。知的なシングルマザーの和美(石田ゆり子)が智子の突っ拍子もないところに共感し、クールさを捨て熱くなる様が感動を呼ぶ。
そしてエリート議員、藤堂が自分の出自を呪い、寒々しいアパートを借りてデリヘル嬢に溺れる生活も、ドラマに陰影を生む。
最近やや安直に使われ過ぎの高橋一生だが、久しぶりの適役を得た。
議会のボス役は古田新太。その政敵の市長は余貴美子と脇役陣も手堅い。政治を描くならこれだよと納得した。
▼『民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~』
フジテレビ 月 21:00~21:54