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日本テレビをV字回復させた男

「あらたにす」でのヤフー vs 読売・朝日・日経連合軍の戦いで、実は重要な役割を果たしたのが、当時読売新聞でデジタルと放送を統括するメディア戦略局長の地位にあった大久保好男だった。

 しかし、その大久保が2010年に日本テレビに行ってからの話も通史では書けなかったのでこの列伝で書いている。

 大久保が着任する前、日本テレビは、3576億円あった売り上げ(2005年度)が、2010年には2969億円まで下がっていた。「ネット」が勃興するなか、「放送」にこだわっていたゆえの衰退だった。実は日本の放送番組は、巨大な電波塔から電波を発し、個別の受信機(テレビ)で受信して見るというやりかたをしなくとも、インターネットで配信はできた。それをしなかったのは、系列のローカル局が、キー局の番組だのみで編成をしていたからだ。仮にスマホにテレビが同時配信されるようになると、ローカル局の存在意味がなくなる。

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大久保好男氏 ©時事通信社

「あらたにす」は紙からインターネットの跳躍だったが、2011年6月に代表取締役社長になった大久保は、日本テレビで「放送」から「ネット」への跳躍をしようと試みる。ここで大久保がとった戦略は天才的だった。ネット同時配信はしない。しかし、有料のサブスクモデルを試みるのだ。これであれば、既存のビジネスモデルを壊すことなく「ネット」に日本テレビも参入できる。

 翌年に発表した中期経営計画で、「500億円を原資とした新規事業投資」を決め、2014年にHuluを中核的事業として買収、民放初の有料型動画配信サービスに参入したのだった。

 しかもHuluをホールディングスの子会社にするのではなく、日本テレビの子会社とすることで、グリップをきかせた。これによって後に、スピンオフや違う結末などのコンテンツを用意することで、地上波で宣伝しHuluに導入するという流れをつくることができた。2019年3月には会員数202.8万人となり、月額1026円のHuluの収入が母体の「コンテンツ販売収入」は、2020年3月期で680億円を超えるようになる。

 日本テレビの2020年3月の売上が4266億円だから、大久保が社長になってから日本テレビは、1000億円以上もの売上を増やすV字回復だ。

©AFLO

 2021年3月期の決算は、コロナ禍による広告の激減によって減収となったが、それでも有料サブスクという柱を持っているために8.3パーセント減と、比較的この広告料収入減をよく吸収している。たとえばフジテレビの2021年3月期決算の、対前年17.7パーセント減という数字と比べるとそのことがよくわかる。

部数を伸ばし続ける唯一の週刊誌の秘密

2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版)

 列伝は国内だけではない。週刊誌は世界的に退潮を続けている。週刊文春も例外ではない。そうしたなか、部数を伸ばし続けている唯一の週刊誌が英エコノミスト誌だ。

 1996年には50万部だった部数は、2001年には76万部、最新の2021年の数字では、112万部。

 その秘密は広告に頼らない有料でのデジタル購読によって世界中に読者がいることだ。