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「後ろ向きにさせて縛って、顔には水を」…“地獄の拷問”が行われた韓国KCIA「肉局」跡地で目にしたモノ

「後ろ向きにさせて縛って、顔には水を」…“地獄の拷問”が行われた韓国KCIA「肉局」跡地で目にしたモノ

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2021/09/17

2階建ての別荘のような一軒家の正体

 そして、この本部の脇道を南山方向に入った少し奥まったところには2階建ての別荘のような佇まいの一軒家がある。敷地793.7平方メートル。地下もあるこの建物は、KCIAの最高峰、KCIA部長邸だった。

 1996年にソウル市が購入し、2001年に改修工事を行った後は、市民が文学とふれあう場所として「文学の家 ソウル」に代わっている。ずいぶん人が出入りしていないのだろう、そこここに蜘蛛の巣がはっていた。

KCIA部長邸跡。コロナ禍ということもありひっそりと静まりかえっていた ©菅野朋子

 この南山北麓一帯は、朝鮮時代には武芸の練習場だったそうで、それが「南山芸場公園」の名の由来となっている。その後、日本の植民地時代には、前にも触れた統監官邸が建てられ、KCIA6局があった場所には総督府の官舎があった。そして、南山には「朝鮮神宮」などの神社もあった。

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統監官邸跡。「強制併合条約を調印した庚戌国恥の現場である」と刻まれている ©菅野朋子
官舎の「遺構」©菅野朋子

 さらに時は過ぎ、軍事政権時代にはKCIAの本館などの施設が入った。過去に遡ると、人気観光スポット、市民の憩いの場所という東西南側とは異なる、南山北麓の姿が見えてくる。北麓は実に数奇な記憶を抱えた場所なのだ。

 2016年には、「統監官邸跡」横に元慰安婦の存在を記憶するための「記憶の場所」が加えられた。「記憶すべき場所」「国恥の場所」に建てるのがふさわしいとされたためで、「ダークツアー」の最寄り駅である明洞駅から「南山芸場公園」に向かう道の壁には「記憶の場所」と記され、元慰安婦ハルモニの姿も描かれている。

「慟哭の壁」。元慰安婦ハルモニ247人の名前と証言が刻まれており、右側には「ナヌムの家」にいた金順徳氏が描いた「連れていかれる」という絵が刻まれている ©菅野朋子