家族の悩みを打ち明けたとき、希林さんがくれた言葉
私の父は自動車関連の会社を経営していましたが、「飲む・打つ・買う」のやりたい放題で、母に暴力を振るうのも物を投げて壊すのもわが家では日常の光景でした。父には常に別の女性がいて、平気で私たちが暮らす家に出入りするような人もいました。
デビューの翌年は、ドラマ『寺内貫太郎一家』(TBS)でまた希林さんと共演しました。『寺内貫太郎一家』で小林亜星さんが演じた主人公の貫太郎は、短気でちゃぶ台をひっくり返したり、息子を投げ飛ばしたりします。
「私の父は、寺内貫太郎以上に、怒鳴り散らしたり暴れたりするから、こんな風景に慣れているんだよね……」
私は撮影現場で希林さんに、父の行状について時には悪態をつきながらこぼしました。
希林さんは、父をかわいそうな人だと言いました。
「お父さんは人生がうまくいかないことや、自分の不甲斐なさを、怒りや暴力でしか表現できないんだろうね」
18歳の私には、なかなか父をそのように理解することはできなかったのですが、希林さんが親身になってくれることがうれしくて、ますます希林さんに懐いていきました。
「(専業主婦は)すごい仕事だよ。美代ちゃん、やってごらんよ」
私は21歳でフォークシンガーの吉田拓郎さんと結婚して専業主婦になります。芸能界を引退して結婚することを選んだいきさつは本に詳しく書いたつもりでしたが、そういえばこんなこともありました。
その頃、私は交通事故に遭って手首を骨折し、決まっていた舞台を降板しました。周囲に迷惑をかけてしまったことに落ち込んでいたところ、吉田さんが毎日のようにお見舞いに来てくれたんです。そしてずっと一緒にいてくれたので、とても救われた。結婚を決めた理由はいくつかありますが、このことはとても大きな理由になりました。
私の親にしてみれば、吉田さんは再婚だし、ミュージシャンは不安定だし、何より私はまだ若過ぎるからと結婚には大反対でした。事務所にも仕事仲間にも反対されましたが、希林さんだけは違いました。
希林さんと内田裕也さんは吉田さん行きつけのバー「ペニーレイン」に乗り込み、私とどういうつもりで付き合っているのかと詰め寄ったんです。
吉田さんが「真剣に付き合っています」と答えたので、希林さんは私の両親の説得に家まで来てくれました。そして芸能界をやめようかどうしようかと悩んでいた私には、こう言ってくれました。
「専業主婦をちゃんとやれたら、人間として何でもできるようになるわよ。報酬もないのに、家族のために尽くせるなんてすごい仕事だよ。美代ちゃん、やってごらんよ」
若い結婚についてもむしろ賛成していました。