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「まだ19歳だし、相手がミュージシャンだなんてあり得ない」吉田拓郎からのプロポーズに両親は大反対…浅田美代子の背中を押した樹木希林の言葉

『ひとりじめ』より#2

2021/10/02

source : 文藝出版局

genre : エンタメ, 芸能, テレビ・ラジオ

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 私よりも10歳年上の吉田さんは、いつも堂々としていて余裕があって、愛を表現することのみならず、全ての行動がストレートでエネルギッシュな人だった。そんな吉田さんは、私にとって頼もしく、一際、かっこよく感じられた。

 学生時代の淡い恋をのぞけば、大人の階段を登り始めてからの初めての恋だ。恋にも青春にも飢えていた私にとって、吉田さんから得られたときめきや刺激は新鮮であり、貴重なものでもあった。

付き合って1年でプロポーズ…両親は大反対

 2人の関係がスクープされてからは、周囲はてんやわんやしていたものの、吉田さんは、付き合って1年目くらいでプロポーズしてくれた。行きつけのBARで2人で話していた時のこと。

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 一瞬、おしゃべりが止まると、吉田さんはコースターを手に取り、その裏側に何かをさらさら書いて、私に渡してくれた。そのコースターを裏返すと、「結婚しよう」と一言だけ。

 その演出のスマートさもさることながら、ここから、自分の人生がまた変わっていくのかと思うと胸が高鳴った。とはいえ、全く迷いがなかったといえば、嘘になる。

 当時の私は、まだ子供だった。芸能界に入って怒濤の3年半を過ごしてきたけれど、年齢的にもキャリア的にも技術的にも、芸能人としての浅田美代子は、まだまだこれからであろうということは、誰に言われずとも私自身がわかっていた。

 両親は大反対だった。もともと厳しくて保守的な父と母は、「まだ19歳だし、相手がミュージシャンだなんてあり得ない」と思ったようだ。特に、父親は怒り狂っていてとりつくしまもなかった。

 結婚の話を切り出すと激昂して、家の2階にある私の部屋へと向かうと、「出ていけ!」と洋服ダンスから私の服を一度に何枚もつかみ取り、窓からブワッと一気に放りなげた。

 驚いて、慌てて2階の窓から身を乗り出すと、盛大にまき散らされた色鮮やかな洋服たちが、道路一面に広がっているのが見えた。まるで花が咲いているようだなと、妙に冷静に眺めていたのを覚えている。短気な父親に辟易しながら、どこか客観的にその光景を眺めてもいた。

結婚を決めた2つの理由

 事務所も仕事仲間も反対だった。それでも、最終的に私が吉田さんとの結婚を決めたのは、ただ恋に溺れていたからだけではない。結婚を決めた理由は、主に2つある。

 1つは、あまりにも多くの人に強く反対されたから。生来、私には「何事も反対されると燃え上がる」という気の強さやひねくれた部分があるのだ。そういえば、母も反対されながら結婚したという。芸能界に入ってからは、あらゆることを我慢し続けて、自我を押し込めてきたことへの不満も一気に爆発したのだろう。そして、何より父親への反抗心が大きかった。

 母や私や弟には、厳し過ぎるほど厳しいくせに、自分は「飲む、打つ、買う」をフルでこなして、やりたい放題。そんな父にずっと嫌悪感と反抗心を抱いていた私は、早く家を出たくてたまらなかったのだ。