「混乱の極み。もはや自分が何をやっているのかも把握できていない状態です」

 こうため息をこぼすのは、自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)でいち早く出馬を表明した高市早苗前総務相の陣営スタッフの一人だ。

 当初は泡沫候補扱いだったものの、安倍晋三前首相が支持を表明したことから評価が一転。「キングメーカー」として存在感を示す安倍氏の威光をバックに一時は総裁選の「台風の目」に躍り出た高市氏だったが、日に日に存在感が埋没し、迷走中だ。

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自民党総裁選に立候補し、所見発表演説をする高市早苗前総務相 ©時事通信社

保守系世論調査を追い風に安倍政権の“後継者”アピール

「そもそも高市さんが出馬に色気を見せ始めたのは、産経新聞社系のニュースサイト『ZAKZAK』が8月に行った次期自民党総裁についての世論調査がきっかけでした」と振り返るのは前出のスタッフだ。

「ZAKZAKは、保守色の強い産経系のメディアの中でも特に先鋭的な論調を展開する夕刊フジのポータルサイトとして知られています。執筆陣には、有本香氏やケント・ギルバート氏ら保守系論客が名前を連ね、中国や韓国に批判的で極度の親米保守路線を志向する層が主な購買層。安倍氏の寵愛を受けるタカ派の高市氏は、世論調査では他を大きく引き離す81%という高支持率を叩き出しました」(同前)

 この数字に敏感に反応したのが、高市氏の周辺だった。高市氏と付き合いの深い経済人らが「その気」になり、高市氏の前夫である山本拓衆院議員が担ぎ出しに動いたことで機運は一気に高まったという。

「出馬会見では、大胆な財政出動などを柱とする安倍氏の経済政策『アベノミクス』を踏襲した『サナエノミクス』をぶち上げた。その後に出演したテレビ番組でも『靖国参拝』を掲げるなど、党内の保守派にアピールする公約を次々と打ち出し、安倍政権の“正統後継者”であることを猛アピールしました」(政治部記者)

 その後も、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する「敵基地攻撃能力」の保有を巡り、「敵基地を一刻も早く無力化した方が勝ちだ。使えるツールは電磁波や衛星ということになる」と述べるなど保守層に響く主張を繰り返し、野田聖子幹事長代行が告示日直前に出馬を決めるまでは、「紅一点」というアピールポイントも存分に活用した。