一般市民を襲撃した4つの事件で殺人などの罪に問われた暴力団「工藤会」(北九州市)の総裁、野村悟が2021年8月、福岡地裁で死刑判決を言い渡された。野村がトップとして率いる工藤会は、ほかの暴力団との対立抗争だけでなく、意に沿わない企業や事業者、一般市民にも暴力を行使してきた。このため特に危険な組織として、長年にわたる警察当局の警戒と捜査の対象だった。
工藤会による襲撃事件は拳銃や刃物を使った危険で凶悪なケースが多い。このため、福岡県公安委員会は2012年、工藤会を「特定危険指定暴力団」に指定し活動を強力に規制している。工藤会による暴力は企業や一般市民だけでなく、時には政治家にも向けられてきた歴史がある。(全3回の3回目、#1、#2を読む)
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「特定危険」指定暴力団
工藤会は北九州市を拠点として、福岡県や山口県西部に勢力を持つ。1992年3月に施行された暴力団対策法によって指定暴力団に指定されている。野村がトップに就任した2000年以降、企業や一般市民への襲撃事件が多発するようになった。
死刑判決となった元漁協組合長射殺事件など4つの一般市民襲撃事件だけでなく、工藤会による事件は続発していた。暴力団追放運動のリーダーが経営する高級クラブへの手榴弾投げ込み事件や同様に運動に取り組む個人宅への銃撃、スナックなど飲食店経営者を刃物で襲撃する事件なども発生、その他にも未解決事件も多かった。
事件続発を受けて、福岡県公安委員会は2012年12月、暴対法に基づいて工藤会を特定危険指定暴力団に指定した。特定危険指定の規定は同年10月に施行された改正暴力団対策法に新設されていた。特定危険指定暴力団とは、指定暴力団のうち一般市民などに対して拳銃などの発砲や刃物で切り付けるなどの行為を繰り返す特に危険な組織として指定される。
警察当局の幹部がまず指定暴力団について解説する。
「用心棒代やあいさつ料などのみかじめ料や不当な債権回収などの違反行為が判明した場合には、中止命令が出される。従わない場合には逮捕となる」
そのうえで、「特定危険指定暴力団となると、設定された警戒区域内でこうした行為が判明した場合に、中止命令などの行政手続きを経ずに直罰規定として即逮捕出来ることになっている。即逮捕できる効果は非常に大きい」と強調する。
多くの暴力団幹部らは、「対立抗争などのほかのヤクザとのケンカで、組織のために事件を起こして逮捕されるのは当然のこと。ヤクザとしては覚悟している。しかし、バカバカしいことで逮捕されるのは、まさにバカバカしい」と述べている。
指定期間は1年間だが、工藤会は2012年に指定されてから更新が繰り返されており、全国で唯一の特定危険指定暴力団となっている。