一般市民を襲撃する数々の事件を引き起こし、殺人罪などに問われた暴力団「工藤会」(北九州市)のトップ、総裁の野村悟に対して、福岡地裁は2021年8月24日、死刑判決を言い渡した。暴力団トップへの死刑判決は初のことだ。ナンバー2の会長、田上不美夫は無期懲役だった。判決の対象となった4つの事件では実行犯に野村が犯行を指示した直接的な証拠がないなかで、間接的な証拠に基づき共謀があったと「推認」されるとの理由が示された。
凶悪な事件を起こしてきた工藤会のトップに死刑判決が下されたとはいえ、「暴力の街」「修羅の街」とまで称された北九州市の中心街・小倉の街に平穏がもたらされるのかどうか、まだ今後の推移の見極めが必要となりそうだ。(全3回の1回目/#2、#3を読む)
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何でもヤクザだからといって死刑?
「これはヤクザ裁判だ。(トップが犯行を指示したとする)しっかりした証拠がなくとも、何でもヤクザだからといって死刑となるのであれば問題だ」
関西地方に拠点を構える指定暴力団の幹部が、工藤会トップの死刑判決のニュースが流れると、不満とともに不安も混じった感想を述べた。
ただ今回の判決は、直接証拠がないなかで検察側が膨大な状況証拠を積み重ねてきたため、「ヤクザの事件だからといって、すべての事件で今回の判決と同様に間接的な証拠が認められ、何でも推認で有罪となるわけではないはず」と冷静な見方も示した。
首都圏で活動している指定暴力団幹部は、「工藤会は暴れすぎだ」と批判する。
「ヤクザはカタギのみなさんに親しくしてもらって成り立っているようなもの。そのカタギに向かって暴力を振るうとは考えられない。ヤクザはケンカの相手がヤクザなら組織のためにやる。しかし、一般の市民を相手とは、どうしたことか。それも何度にもわたって。工藤会がやり過ぎたから、暴対法の改正で規制が強化されるなど、警察の締め付けが全国のヤクザに及んでいる。一言でいうと迷惑なことだと思っていた。警察を怒らせるだけ」
警察庁で長年にわたって組織犯罪対策にあたってきた幹部は別の観点から暴力団の行動について指摘する。
「暴力団とは、文字通り暴力を行使することで組織の維持を図っている。警察としては認められないが、百歩譲って暴力団が振るう暴力とは、対立抗争などの場合に暴力団同士の間で行使されるもののはず。一般市民に向けて暴力が繰り返し振るわれるのは到底、許されるものではない」