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ウイルスセンター長が警報を鳴らす「空気感染を認めないと、防げるものも防げなくなります」

『亡国のオリンピック』より#2

2021/10/06

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 読書, スポーツ, 社会, 医療, 国際, 政治, 経済, 歴史

note

「エアロゾル」を運ぶのは水ではなく空気

──NHKの「クローズアップ現代+」(2021年6月23日放送「最新研究で迫る変異ウイルス感染防止策」)では、「エアロゾル感染」という言い方で説明されていましたね。

西村 あれがひとつの小さなきっかけになればと思っています。NHKの担当記者にきちんと説明したところ、彼らは納得しました。彼らも、今までの自分たちのやり方はやはりまずかったと反省していて、エアロゾル感染という言葉をきちんと放送した。

──エアロゾル感染というのは、つまりは空気感染ですね。

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西村 そうです。エアロゾルというのは空中を浮遊する粒子のことで、それを吸って感染するのですが、それを運んでいるものは水ではなく空気ということです。

──「バブル方式」は穴だらけではないですか?

西村 それは多くの心ある人たちが思っていると思いますが、表には出てきませんね。「バブル方式」というのは誰が考え出したのでしょうか。たぶん物事を動かすために考え出された方法でしょうが、誰がお墨付きを与えたのでしょうか。本当にそれが正しいやり方なのかの議論は、少なくとも日本ではどこにもなかったと思います。

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オリンピックはウイルスの“種まき” 秋冬の大流行が心配だ

──専門家や政府は、新型コロナは大した病気じゃないと考えているのでしょうか。

西村 そこまでではないでしょう。むしろ逆で、ものすごく脅威に思っているから今みたいなトンチンカンなことが起きているのでしょう。ただ、ワクチンがあれば、なんとかなると思っている。その点は私も同じです。大半の国民がワクチンを打っているのだったら、そんなに怖くないと思います。ただ、ワクチンが行き渡らない状態では、ダメだろうと見ている。この病気が怖いのは、重症化する人が増えると、それが医療崩壊につながりかねないことです。しかし、感染しても重症化しないのなら、それは“かぜ”みたいなものです。そこまでいけば、脅威ではなくなってくる。

 例えば今の子どもたちに関して言えば、感染しても鼻かぜ程度で済んでいる。国民全体がそういう状態になってくれれば、そんなに怖くはない。高齢者は危ないというのはあるかもしれないが、それはインフルエンザも一緒です。ある程度ワクチンを打って重症化が防げるなら、感染者は増えてもいいという感覚になったのがイギリスやアメリカでしょう。

 問題は後遺症。鼻かぜ程度で済んだ人たちの後遺症がどれくらいあるかは、これからわかってくることだと思います。ただ、後遺症が残らず、感染しても重症化しないとなれば、この感染症はそれほど怖い病気ではなくなる。

 そういう状態を作った後であれば、オリンピックをやってもよかったと思いますが、いかんせん間に合いませんでした。それなのに開催した以上、今後は冬にかけて、どんどんどんどんワクチンの接種率を上げていくのが重要になります。

 オリンピック開催で怖いのは、いま流行の「種」がどんどんどんどんまかれている状態になっていることです。それが秋冬に大流行になったときが怖い。それを食い止めるためにはもうワクチンの普及率との競争になります。この競争に負けたら、われわれはひどい目にあいます。

 それと、空気感染を認めないと、本当は防げるものも防げなくなります。